大学4年生の春、私は東京で開催されたとある音楽フェスに参加した。
そのイベントに参加するため、地元熊本から東京へ3泊で行った。

1人での参加者が多かったそのイベントは、たまたま近くにいた人たちとまるで友達かのように一緒に歌い、叫び、盛り上がった。
イベントの盛り上がりは収まらず、近くで一緒に盛り上がった人たちと2次会に行くことになった。

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私以外は皆、東京の人たちだった。右も左も分からない夜の渋谷を、他の人たちはスタスタ駆け抜けていった。その背中に私もワクワクしながらついていった。
2次会はカラオケだったが、だんだんと皆酔っぱらってきて、数時間たったあと、その中の一人が「クラブに行こう」と言った。彼女こそが私の憧れの人物である。

私はそれまでクラブなど行ったことがなく不安だったので彼女にそう伝えた。すると彼女は軽く笑いながら「大丈夫だよ」と言ってカラオケを出てからクラブに行くまでずっと私と手を繋いでいてくれた。

数人でクラブに来たはずだったが、いつの間にかクラブの中では私と彼女の2人になっていた。彼女はスムーズにお酒を頼み、すごくオシャレに音楽にのり、近くにいた男の人とキスしながら楽しんでいた。私はそんな彼女の姿の姿に圧倒されながら、クラブの大音量の音楽が聞こえなくなるくらいに彼女に魅了された。

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その日に彼女とInstagramを交換したので見てみると、彼女は数か国語話せる天才大学生だった。私は彼女がInstagramを更新するたびに嬉しくて、そのたびに自分の中の何かが満たされる感覚があった。それから旅行で東京を訪ねる時は、彼女はもちろん、あの夜一緒にカラオケに行ったメンバーを夜ごはんに誘った。

毎回彼女が渋谷のレストランを予約してくれた。程よくドレスアップし、注文も取り分けもスマートにこなす彼女はいつ見ても私の憧れだった。彼女も私もお酒を飲むことが大好きだったので、毎回たくさんお酒を飲んで酔っ払った。日ごろは都内の一流大学に通う大学生なのに、オフの時は酔っ払い、テキトーなことを言い、ひとめぼれした相手とキスをしたりする彼女が大好きだった。

彼女と会うたびに私は聞きたいことをストレートに聞いた。どれだけ彼女に質問しても、私は彼女のほんの一部分しか知らないんだというミステリアスな感じが彼女にはあった。

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結局彼女と会ったのは合計3回。一緒に行く予定だったライブのチケットを彼女は直前になっても支払わず、結局キャンセルされた。なんて彼女らしい裏切りだろうかと思った。なぜか怒りは感じなかったが、彼女とは会うのをやめようと思った。彼女のInstagramのフォローを外し、DMにも返信しなかった。

結局私にとって彼女は特別な友達だったが、彼女にとって私は友達でさえなかったのかもしれないと思った。寂しかったが、彼女と友達になることはできないと心のどこかで感じていたため、ショックではなかった。
この出来事の後、私は大学を卒業し、上京した。彼女が連れて行ってくれたクラブは寂しくなった夜に1人でよく通った。彼女が連れて行ってくれた渋谷のイタリアンレストランは私のお気に入りで、友達や家族も連れて行ったし、デートでも行った。

大学生だった私に新しい世界を教えてくれた彼女は今でも多分これからも私の「憧れ」だ。これからもう二度と会いたくないけど、なぜ彼女はあんなにもふわふわして軽そうで無責任そうで、それでいてなんであんなにいつも仲間に囲まれて楽しそうなのか、そんな彼女の魅力をもっと知りたかった。