中学3年生のころの私の悩みは、なぜ自分の脚だけがこんなにも太くて醜いのかということだった。太っているわけではなかったものの、典型的な洋ナシ体型だった私の脚はお世辞にも細いとは言えず、母から何度「あなたの脚は決して太くない」「ダイエットなんてしなくていい」と言われても、そうは思えなかった。

私より細い友達も口をそろえて「脚細くしたい」「痩せたい」と言っていたので、常にある「痩せなきゃ」という強迫めいた気持ちと、全然細くならない現実のはざまで、いつも苦しかった。

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子どものころ、親からずっと「色白でかわいい」「将来美人になる」と言われていたので、容姿にコンプレックスをもったことがほとんどなかった。しかし思春期になって、モデルのようにすらっとしたかわいい子がたくさんいると知り、自分はそのカテゴリーに含まれていないと気づいてしまったのだ。

もう「将来美人になる」なんて、とても思えなかった。

気づいたきっかけは、人から脚の短さをからかわれたことだと思う。
ある日、着席した私の足が教室の床についていないことを、ちょっと気の強い女友達にイジられた。たしかに、ほかの子たちはすらっと長い脚を余らせて折り畳むようにして机の中に仕舞っているのに、私のつま先はギリギリ床に着くか着かないかで、不安定にブラブラ揺れていた。
私の脚は筋肉質でボリュームがあるくせに、長さだけはコンパクトサイズ。醜い、と思った。それから自分の脚が気になるようになった。

またダンス部に入っていたので、人より鏡を見る回数の多い中学生だったことも大きいと思う。レッスン室の鏡を見るたびに、どうしても隣の子より自分の方がずんぐりして見えて、自分の体型が気になった。

一般的に、ダンスは細くて手足が長い人のほうが見栄えがする。うまく踊れたときも、これで手足が長くて細かったらもっとよかったのに、と何度も思った。

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そんな日々で、私の性格は少し暗くなった。

まず、写真が怖くなった。制服のスカートはちょうどひざ下くらいの丈だったので、写真を撮られるときはカバンでふくらはぎを隠すように気を付けていた。また、ちょうど男子の視線が気になる年齢だったのもあり、ほかの女子の隣に立つのが憂鬱になった。どうせ比べられてランク付けされているであろうことを、肌で感じて知っていたから。知っている男子に後ろに立たれることすら当時は恐怖で、くのいちみたいに、下校中は誰かに背後を取られないように気を張っていた。

今振り返ると本当に気にしすぎだと思う。でも、当時は必死だった。

偶然かもしれないが、彼氏がいる女友達はみんな華奢で脚が細かった。また、周りの男子数人は「美脚好き」を公言していた。それで、私の中ではすっかり「男性は脚が細い子が好き」というイメージが固まってしまった。だってモデルもアイドルもみんな脚が細い。考えてみたら当たり前だ。私が友達と比べていまいち垢抜けていないのもなかなか彼氏ができないのも、全部脚が太いせいだと思って過ごした。

そのまま大して脚が細くならなかった私は、誰に対しても「私って脚太くてさ~」と自虐する大人に成長した。これは自分の弱さだったと思う。人から指摘される前に「私自分で脚が太いのわかってますよ~!」と伝えて予防線を張っておかないと、落ち着かなかったのだ。それをしないで攻撃されて傷つくくらいなら先手を打つ。何と戦っているのか分からないが、そんな癖が染みついてしまった。

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転機は24歳のとき、夫と出会って付き合い始めたこと。彼は私のことを、スタイルがよくて脚がきれい、と褒めてくれた。私は落ち着かなくて、いつもの癖で「でもさ、脚太いよね」と言った。お世辞をありがとう、でも脚が太いのはわかってるよって。すると彼は「そこが良いんじゃん!」と言った。

単純に、太い脚が好きらしい。「そんな人いるの!?」と私は本気で驚いたが、彼は「むしろそういう人の方が多いよ!」と主張した。さすがにそんなわけないと思う。でも実際、多数派だろうと少数派だろうと、脚が太いことをきれいと思う人に出会えたことが救いになった。「脚が太い=醜い」というのは思春期の思い込みで、無駄に10年コンプレックスを抱えていただけかもしれない、と思えた。

彼にとって私の脚は、「太くて、きれいで、セクシー」らしい。そうか、私はセクシーだったのか。太くて醜いと思っていた自分の脚が太くてきれいと言われ、太いまま肯定されたことは衝撃的なうれしさだった。彼は決して私の脚を細いとは言わない。彼にとって「脚が太い」はからかいではなく、褒め言葉だった。

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もちろん、彼の評価ひとつでコンプレックスが完全になくなったわけではない。今でも、私はどうしても脚の細い女性がうらやましい。でもそれは人からの評価ではなく、脚が細い女性の方がやっぱり私はかわいいと思うから、という自分の主観が理由だ。

また私は、ロングスカートばかり履く。それはロングスカートが好きだからでもあるし、やっぱり自分の脚を隠したいからでもある。でも、自分の脚を隠したい理由が、昔と今で少し違う。昔は「脚が太くて醜いから」だったが、今は単純に「脚が太いから」だ。「ちょっと太いから隠しとくか」みたいな感じ。子どものころのように、誰とも比べずに、自分をありのまま受け入れて肯定することはできているように思う。なんなら機嫌が良いときは、「私の脚はきれいだけど、出すとちょっとセクシーすぎるから隠しておくか」くらいの気持ちで服を選ぶことさえある。

みんな、自分の容姿にコンプレックスが一つくらいはあると思う。それを無理に好きになろうとしたり、そんなことないと思い込もうとしたりはしなくていい。自分の主観としてありのまま受け止めたらよいと思う。しかし、「だから醜い」と決めつけないでほしい。あなたのそれを、「だからこそ良い」「そこがセクシー」と心から肯定する人もいるかもしれない。