芸人さんのラジオに面白い投稿をするはがき職人がいるなら、私は地元のラジオに素直な投稿をするメール職人だったと言える。小学生から十年以上使っているピンクの机の引き出しの目立つ所に、紫色のノートがしまわれている。ゆるキャラが描かれているけれど、かわいいことを理由に買ったからその町のことを私はよく知らない。数ページで終わっているそのノートは、希少な小学生リスナーだった私がラジオ番組で読んでもらえたメールの記録だった。当時は学校へのモチベーションが流動的だったけれど、それ以外の場所(主にお出かけ)で見つけた楽しさを私なりに発信していたみたいだ。

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付録目的で毎号を楽しみにしていた子ども向けの科学雑誌。その月の付録は、ほぼ組み合わせるだけのラジオ作製キット。その作業を父に丸投げして、完成したところでわくわくしながら周波数を合わせた。小さなハンドルは、その数字からほとんど動かさなかった。

中高生のリスナーが多く午後八時に始まる番組だったから、しっかり聴くために入浴を済ませていた。ピンクの机の片隅に置いたラジオから、パーソナリティさんの楽しそうな声を聴いていた。

「今日もみんなからのたくさんのメール待ってます!」
「メールアドレスは……」

スマートフォンを持っていない私に投稿する術はあるのか、家族共用のパソコンで調べてみることにした。すると、ラジオ局のホームページに投稿フォームがあった。メッセージを送る番組をプルダウンメニューから選び、お便りとリクエスト曲を打ち込む。学校でちゃんとタイピングの練習をしていてよかった。

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クラスメートの些細なからかいに傷ついた五年生、クラス替えが導入されて平和に過ごし、課外活動にも精一杯取り組んだ六年生。夏は登校日の翌日の遊園地のこと、冬は初めてのアイススケートに行ったこと、スマートフォンを手に入れた直後は将来やってみたいこと(詳しい記録はないけれどたぶん音楽の仕事)を書いて送った。

読みやすくすることにこだわったけれど、何よりも幸せに満ちたメッセージだったと思う。未来の見えない状態で今を生きることが、小学生にはこんなに楽しかったんだ。

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私の住む県のラジオ局は、自社制作の番組が多いことが特徴らしい。これは中学生になった私が、地元の職業体験イベントで聞くことになる話だ。同級生に見つかるのが嫌で投稿の頻度は下がったけれど、ラジオの仕事をすることへの憧れが新しく生まれていた。

「盛り上がる話題をいつも考えています」

十歳の私が頼りになるお兄さんと思っていたパーソナリティさんは、ちゃんとメディアの世界で生きている社会人だった。自分の見つけたかわいいもの、楽しいこと、たまには悩みを誰かのために使いたくて、今はその手段がエッセイなんだと思う。

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私が就職活動をするまで、あと千日ほどの時間がある。まだメディアの仕事を志望しているかな。文章を書くことで食べていきたいなんて考えてないかな、今の私なら反対するけど。まずは「小さな幸せを見つけること」のプロになろうと思っている。