今は渋谷にあるコミュニティFMでラジオパーソナリティを務めている私。
先日、出演しているラジオ番組の公開収録が年内最後だったということで、寒空の中、観覧に来てくださったリスナーさん2人と、放送終了後にお茶することにした。
ありがたいことに、1人の女性リスナーさんが「リサさんってファンとの距離感が近いですよね!」と言ってくれたのだ。

そもそも、素人に毛が生えたレベルのラジオパーソナリティと自覚しているので、芸能人ヅラして「ファンの方には挨拶するだけ」なんて偉そうな態度を取るつもりは全くない。
「応援してくれる方を大切にしたい」という思いから意識的に身近に感じていただける距離感でいるのだが、そのような考えた方に行きついたエピソードを話そうと思う。

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私がまだ福岡の女子高生で、ガラス張りのラジオブースを外から眺めていた頃。
当時の私はある男性アイドルグループに大ハマりしていた。
そのグループの中で推しメンは、私より2つ年上でボーカルを務めていたKくん。
Kくんは「アッヒャッヒャ」という甲高い特徴的な笑い声と正反対に、歌い始めると乙女心をメロメロにさせる甘〜いボイスの持ち主。
そんなKくんは喜怒哀楽がハッキリしているので、なんとなく何を考えているのかファン側は察しやすく、そんな素直すぎるところも好きだった。

ある日、Kくんが所属するアイドルグループの数名が、福岡のラジオ局で公開収録をすることになった。
その数名の中にはKくんも含まれていた。
そこで私は、同じファン同士で仲良くなったTwitterのフォロワー数名と、公開収録を見に行くことにした。

その日は学校が休み。
当時女子高生だった私はとびっきりのオシャレをして、覚えたてのメイクを慣れないながらに施し、Twitterのフォロワー達と合流。
フォロワー達と「ガラス越しに推しが居るとかヤバくない!?楽しみっちゃけど!」などと、はしゃぎながら楽しみにしていた。

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ラジオ番組が放送スタート。
冒頭は爽やかな男性ラジオパーソナリティが1人で番組を進行していた。
番組の途中、トレンド曲が紹介され、ラジオブース内のマイクがオフになった時、Kくんを含む数名のメンバーがラジオブースにゲストとして入室してきた。
ガラス越しなので声こそ届いていないが、彼らが登場した途端、公開収録に来ていたファンは一気にワーッと黄色い歓声を上げた。
にこやかに登場するKくん達。
この後、事件が起こるのだった。

番組の途中、彼らの曲が紹介され、ラジオブース内のマイクがオフになった。
その間、ファンはみんなそれぞれの推しに向かってガラス越しに届かない歓声を上げながら、ライブで使用するペンライトを点灯させたり、手を振ったりしていた。
すると、Kくんと一緒にゲスト出演していたメンバーのTくんがファンを横目に、あからさまに怠そうな態度でKくんに耳打ちをしていた。
その怠そうな態度も許せなかったのだが、Tくんの口元の動きを見ていたら、とんでもないことをKくんに耳打ちしていた。

「アイツら、カネ使わないのにラジオに来た」

それを耳打ちされたKくんは、ガラス越しでも笑い声が聞こえてきそうな大きな口を開け、「アッヒャッヒャ」と笑っていた。
その一連の流れを見てしまった後、残り10分ほど彼らが出演するこのラジオ番組を楽しめなくなってしまった。

普段、彼らが福岡でライブをする時は毎回観に行っていたし、わりと古くからのファンである自覚すらあった。
それなのに、お金をどれだけ使うかでファンの応援度合いを測るTくんに私の推しのKくんまで同調していたことに、私は腹立たしさと悲しさで心がぐちゃぐちゃになっていた。

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のちにKくんは方向性の違いでそのアイドルグループから脱退した。
その後、シンガーソングライターとして開催したライブのMCの中で「俺の歌やなくて、俺の顔が見たくてここに来てんねやろ?」と、相当自意識過剰な発言をしていたという。

現在、応援していただいている立場の私は、彼らを反面教師にしていることがある。
それは、応援してもらう上で、私に投資してもらえるお金だけが全てではないということ。
貴重な休みの日や仕事の休憩時間を割いて、私が出演するラジオ収録に来てくれる時間、来るまでに身だしなみを整えてくれた時間、全てがありがたい。
応援してくれている人がいるおかげで、私が輝ける仕事を続けられたり、新たにいただけたりする。
そんな“物事の奥行き”を感じられるようになったのは、皮肉にも当時応援していたKくんのおかげだ。

当時、腹立たしさと悲しさでぐちゃぐちゃになった心は、応援してもらう立場になった私に大切なことを気付かせてくれた。