幼い頃に100円ショップで購入した奇抜な色の口紅。母親の口紅をつけることさえなかったものの、やっぱりお年頃になると化粧に興味を持ち始めるもので。化粧品のアイテムはいくつか認識できるようになっても、メイク落としは知らなかった。

私はまるで悪いことをしているかのように、親に隠れて1人暗い玄関で100円ショップで買った口紅をつけた。親に呼ばれて戻ろうとするも、擦っても全然落ちる様子がなくて焦った。もちろん、メイク落としなんて概念もない。その後、一体どうなったんだっけ?

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他にも同じく化粧に目覚めてきた友人の家に遊びに行った時に、化粧のし合いっこをした。お互いにお互いのメイクをするというもの。もちろん正しい順番も、どんな色がいいのかとかも知らないままに、目を閉じて顔を描きあった。もちろん出来が良いはずもないのだけど、親に隠れてちょっと大人になった気分を味わった。

学校にもよるだろうけど、私の場合は高校生までは学校で化粧が禁止されていた。だから化粧した事はほとんどなかったし、休日に友人と出かけるときに気になっていた一重を二重にするアイプチを試してみたりする程度。

それまで化粧しないことが当たり前で、メイクの方法なんてほとんど知らない。むしろ化粧がバレたら、学校の先生に怒られるし。

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それなのに大学生になった途端、メイクをしていないとすぐに、すっぴんなの?という空気感に包まれる。私も何とか適応しようと、見よう見まねで、インターネットで正しいか正しくないかもわからない情報を頼りに、化粧品コーナーへ行き、沢山並んでいる中で、できるだけ安いものたちを選んだ。CCクリームとかBBクリームとか、聞いたこともない言葉に戸惑いながらも不器用なりに顔を作った。その頃の写真を見返すと、眉毛が濃くて不自然だったり、なんだか不格好だ。

そして新たな壁が就活。いきなり化粧はマナーだと言う。就活に適したメイク講座、なんて開催されて。ありがたいんだか、何なんだか。自分で楽しむためのメイクから、人に見られて不快にさせないメイクにシフトチェンジ。

素直にメイクを楽しめればいいのに、いつだって私たち女性は押し付けられる。メイクは禁止と言われてきたのに、急に当たり前になって、急にマナーへと変わる。

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メイク自体は好きだし、メイクでうまく自分を見せられる人は素敵だな、かっこいいなと素直に思う。周囲に流されてするのではなく、周囲からの視線を気にしてしなければいけないものではなく、自分の好きな色を試したりより肌をきれいに見せたり、嫌いな部分を目立たせなくさせて良いパーツを強調させたり、メイクの可能性は無限大だ。

化粧をしてもしなくても、とやかく言うのなら、せめて授業でメイクの基礎とかを教えて欲しい。幼い頃はとりあえず否定して、ある程度の年齢になったら同調圧力が生まれて、社会人になるとマナーになるなんて馬鹿げてる。

そんな社会人になってそれなりにたつ私は、ある程度の化粧の形はできてきたものの、未だに何が正解なのかはわからない。あまりにも膨大な商品に、あまりにも多くの情報。さらに流行まである。

例えば、若い頃にメイクを禁止する理由が、肌を守るためだったとして。そうしたら肌が荒れないようにメイクをする方法とか、メイク道具の選び方を教えて欲しかった。

お金がかかるからと言う理由であれば、化粧品がどれくらいの金額がするのかとかを教えたっていいと思う。化粧をせずにそのままの自分を受け入れてほしいということであれば、メイクをしてコンプレックスを少しでも減らして、救われる人がいるということにも耳を傾けて欲しい。

メイクをするのは一体全体、誰のためなのだろう。