いつの時分も、己の体型に自信はなかった。しかし、いつの間にか過去の写真を見た時などに「今に比べれば細かった」と思うようになった。要は太ってきたということだ。

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そしてそれは他人から見ても太っている方だと思われるくらいになっている。言い訳でなく事実として、今の己は運動もまったく出来ていないし、食に関しても摂生していないし、生活リズムもどうしても夜型であるもうおおよそ30歳の身体ではただ起きて、生きているだけでは太る。食べた分だけ肥えるのは自然の摂理である。

己の体型が誇れるものでなく、醜いものなのは己のせい。それは分かっている。寝食の時間を削って、己を磨くことに費やせない己のせい。ふと街のショーウィンドウに移った全身のシルエットが歪なのを目にする時、着たいと思った服を着れなかった時、どうしてもどこか垢抜けなさを感じる時、「まあ、実際なんにもやってないからだしな」とは思う。開き直りではなく現状の事実としてそう思える。

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しかし、他人からの言葉には傷つく。特に久方ぶりに会った旧友などは年月のブランクと、昔の若さを知っているが故に余計に今の姿の体積の大きさに衝撃を受けるのだとは思う。本当なら歳を重ね、幼い時分に比べて「大人になった」や「綺麗になった」と思ってもらいたいのに、残念ながらそうはならない。

今からもう2年は経過していることだが、これを一番実感した、一番傷ついて、言ってしまえば今でも根に持っている出来事がある。

その日は、友人の結婚式へ参列していた。新婦の友人に私の同級生が呼ばれていたのだが、会うのは成人式以来で式当日に落ち合うまでは私も会えるのを楽しみにもしていた。しかし再会の一瞥に走らされた視線はあたたかなものではなかったように思った。それは数時間後にはっきりと言葉で明かされた。披露宴の後の二次会で、その二次会ももう終わるというパーティー終盤、手洗いの空きを待つ時に彼女と一緒になった。

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それまでの何時間には間に誰かが居たり、レクリエーションを行ったりしていたから2人きりで話すタイミングがなかった。彼女は三次会も行くという話や、ふた月後の年始には地元へ帰るかなどを話したあと、「これ言って良いのかな、あのさ、めっちゃ太ったよね?」と何への笑みなのか分からない笑みと共に、一応は申し訳なさそうに、彼女は私に訊いた。

私はあまり間を開けずに、おどけながら「そうなの、すっごい太っちゃって…」と口にはした。そしてちょうど空くのを待っていた個室が開き、順番の都合で先であったから、お先にと個室へ入り込り、用を足し、手を洗った辺りで「随分失礼で、言わなくても良いことを言われたな」とじわじわとショックが広がってきた。

しかし、仕方ないことでもあるのかと思って差し上げたかった。それを口にさせてしまった、太っていた私が悪い。パーティードレスを纏っていても、めかしきれていないどこか垢抜けないプロポーションに目が行ってしまったのだろう。10代の若々しい制服姿や成人式での振袖姿を思い出すと余計に。

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それでも、やはり言われたことは傷ついた。事実だとしても、こんな幸せなイベントの最後に言わなくても良かったのではないかと悲しかった。特に、美しい花嫁は勿論、めかしこんで垢抜けた人々をたくさん見た後であったから。被害妄想かもしれないが、その日一日、私には醜いものを見る視線が注がれていたのではないかと、真面目に思い込んだ。思う程、私になど注目の視線は注がれていないと思うが、ふと視界に入った瞬間に「垢抜けてないな」「太っているな」「ダサいな」と思われていた可能性はある。

あの日の写真を見返すと、コンディションもあるだろうがとても肥えていて、醜いと今でも思う。せっかくの晴れの日に申し訳ない程に。しかしやはりショックであったことは忘れられない。

私も、他人の容姿を見た時に体型に目を移してしまうこともある。そして「以前に比べて大きくなったかな?」と思うこともある。だが、思うだけだ。件のパーティーでのことがあったからでなく、それ以前から考えていたことだ。仕事でも人と、それも酒の入った人と接する職業についていると、容姿について言及されることもよくあるからだ。体型が変わってしまっていることなど、本人が一番分かっているだろう。他人に指摘されるまでもなく、四六時中過ごしている己の身体のことを知らぬわけがない。重々承知しているのだ。

それに、言われて気分が良くなるわけのないことを敢えて言ってくるのはいかがなものか。体型の変化で言われても嬉しい、言われた方が嬉しい場合というのもあるだろう。意図して身体を絞っている、鍛えている、魅せる為にボディービルディングをしているトレーニーなどはそうだろう。

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少なくとも私は相手の体型が美しいと思った時、相手が喜ぶであろう時にしか口にしないと決めている。そして、私も嬉しい言葉や視線を向けられるようなプロポーションと心持ちになりたい。もうあの時のことを傷だと思わなくて済むように。そして今後もし、件の率直な発言の同級生に会うことがあった時は、「これ言って良いのかな、めっちゃ痩せたよね?」と言わせてやりたいとも思う。