結婚願望はなかった。結婚制度に縛り付けられるのは嫌だった。そもそも私は家事ができない。家族以外の誰かと一緒に住むという選択肢は私にはなかった。当然同棲もなし。
子供を産みたいという気持ちもなかった。自分の生活だけで精一杯なのに、他の人間の人生を背負うなんてできるはずない。妊娠期間も健康に気を使うし、出産の痛みに耐えられる自信がない。よく「子供が好きだから」という理由で子供が欲しいと言う人がいるが、子供が産まれるということはそんな甘いものじゃないと思う。可愛い子供の時期なんてあっという間で、私の想像もつかないような大変なことが沢山あるはずだ。
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何より私は一人でいるのが好きだ。一人で生きていける。一人で焼肉だって行けるし、カラオケだってできる。
だが恋愛願望がない訳ではなかった。昔から少女漫画を読んで育った私は、ずっと恋愛体質で、人並みに彼氏が欲しいと思っていた。きゅんきゅんしていたかったのだ。
つまり私の希望としてはこうだ。20代のうちに何人かと付き合う。そして30代になったときに「もう恋愛はいいかな」と言って、一人での生活を満喫する。そんな未来を思い描いていた。
その未来を叶えるべく、私は一人の男性を好きになり、付き合うことになった。そこから私の人生はがらっと変わってしまった。
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付き合い始めてすぐ、「この人とはずっと一緒にいる気がするな」と思った。それは「ずっと一緒にいたい」という願望ではなく、予感めいたものだった。
それからデートを重ね、毎日電話をするようになると、一緒にいる時間が全然足りないと感じるようになった。毎日会いたい。そう思うと自然と同棲を考えるようになった。
その考えに至った私は、自分で自分に驚いた。他人と住むなんて絶対できないと思っていた私が?と。彼と一緒に生活するためだったら、苦手な家事も頑張りたいと思えた。
彼と二人で出かけると、今まで一人で見ていた景色とはまるで違った。老夫婦を見ればこれが私たちの未来だと思うようになったし、子供連れの家族を見れば羨ましいと思うようになった。いつからか私は、結婚したいし子供も欲しいと思うようになっていたのだ。
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決定的だったのは、有名なアクセサリーブランド店に行ったときのことだった。見るだけのつもりだったが、店員さんに勧められるがままに指輪を左手の薬指にはめた。その瞬間、彼との結婚が脳裏にはっきりと浮かんだ。
そして付き合い始めてから約一年後、彼と同棲を始めた。
二人で生活するということは、予想していたよりずっと大変だ。思わぬトラブルは沢山ある。もちろんこれから結婚して子供を産んでとなったら、もっと大変なことが待ち受けているだろう。それでも、彼となら乗り越えたいと思うし、乗り越えていけると信じている。乗り越えた先に、大きな幸せが待っているであろうということも。
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一人で生きていける。でも、誰かと一緒の幸せもある。その幸せを得るためなら、苦労するのも悪くないと思える私に変わった。