大学生の時の話。ずっとボランティアに参加したくて、でも全く初めましての外部の活動に1人で参加するほどの行動力はなくて。そんな時、大学校内で、県内の被災地ボランティアの募集がかかった。興味あるんだよね、と友人と話していると、その友人も行ってみたいということで、一緒に参加することになった。
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確かボランティアサークルか何かが主催で、募集は大学全体にかけられ、友人以外に知っている人はいなかった。20人程度が集まり、マイクロバスに乗り込み、目的地へと向かった。現地での活動の詳細を聞いて、いくつかのグループに分かれて、作業が始まった。
順調に体力は削られながら、被災者の方を想い、胸がチクリと痛んだり、自分の無力さを痛感したり、多少の達成感を感じながらその日1日を終えた。
帰りのバスで、通路を挟んだ隣に、短期留学でメキシコから来たという男の子がいた。男の子と言っても、年齢は知らず、見た目は大人びていたけれど。ボランティアに外国人も参加していたんだ。大学にはたくさんの留学生がいるけど、彼とは初めましてだった。ふいに日本が好きで留学してきたという彼との会話が始まり、少し仲良くなって、帰り際にLINEを交換した。
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その後も定期的にやり取りをしていて、今度食事にでも行こうと誘われた。その時の私は、彼が男性だということも忘れ、単に留学生との交流を楽しんでいたため、あまり深く考えていなかった。
大学の授業やアルバイト、サークル。ありがたいことに多忙なスケジュールの中、空いている日を提案した。言ってから気付いたのだけれど、その日はクリスマスかクリスマスイブの日だった。悲しいかな、当時は恋人もおらず、特に予定も入っていないままポッカリと空いた1日に、留学生の彼との予定を入れてしまった。でも、今更変更して貰うのも申し訳なく、特に別の用事があるわけでもないし、とそのまま当日を迎えたのだった。
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クリスマスと意識して会うとなると、なんだかふわふわとした居心地の悪さを感じた。確か彼とは、バスに乗って駅の近くでご飯を食べに行ったような気がする。バスの中、2人席が空いていて隣同士に座った。心なしか、彼との距離がとても近く感じた。何かの拍子で頭を撫でられたりして。その日は1日なんだか「異性」として扱われているような感覚で、世にいう蛙化現象が起きていたように思う。彼が私を異性として好意的に捉えてくれているのか、外国人の彼にとっては当たり前のレディファーストなのかも分からないまま、時間は過ぎてゆく。私としては、まだ1,2回しか会ったことのない彼に特に好意を抱いているわけではなかったため、もしも直接質問して回答が前者だった時が気まずいからと、聞くこともできなかった。
そしてすっかり辺りは暗くなり、別れ際。クリスマスなんて意識していないと言わんばかりに、クリスマスプレゼントも何も用意していない私に対して、彼はクリスマスだからと、リンツのチョコレートをくれた。普段自分では買わないチョコレートにクリスマスを感じ、口ではありがとうとお礼を伝えながらも、気まずさばかりが募っていく。
そして唐突に、横断歩道横の信号機の下で、「ハグしていい?」と聞かれ、断る術も持たないまま、これは外国人特有の、特に何の感情もない挨拶程度のハグだと自分に言い聞かせながら、ハグに応じた。
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結局それからは、やっぱりなんだか気まずくて、段々と距離を置くようになり、やがて連絡も取らなくなった。気付いた頃には彼は、メキシコに帰国していた。
あれはいったい何だったのだろう。よく分からない状況に感情。そして、私が無意識にクリスマスに約束をしてしまったがために、彼に無駄な期待をさへてしまったかもしれないと、今となっては確かめようのない、申し訳なさと後悔を抱えている。
別にわざとでも、悪気があったわけでもないけれど、なんだか申し訳なかったなと。あの時、彼は何を思っていたのだろうと、ふと思い出すことがある。そんな私のあるクリスマスの思い出。