罹患3日目の夜である。
起き上がる気力が生まれたのはつい先ほどのことで、というよりは寝ることの方がきつくなったと言った方が正しい。

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つい先日長期にわたる試練を乗り越え、数日後には年をとり、誕生日の翌日から出張に行った矢先、流れるようにインフルエンザにかかった。

上司からは24日までは休むようにとお達しを受け、無事インフルスマスイブを迎えることとなった。
フル稼働させていた脳は強制休暇に入り、慌ただしく過ごしていた日々では考えないようなことを妄想したりもする。

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最初に思い出したのは3年前のクリスマス。
その年のクリスマス、私はコロナと共に過ごした。
いわゆるコロスマスというものだった。

まだまだ仕事も中途半端だった1年目、2年目と比較して、だいぶ自分のペースに合わせて仕事ができるようになっていった3年目でのコロスマス。
初めて休暇以外で仕事を休んだ時、思ったより自分という人間は社会にとって代えがきくものだということを痛感させられた。
もちろん同僚に負担をかけてしまったという意味では反省だが、私1人いなくても世界は回るし、人は自分に関心がないことを知った。

だからこそ、この社会において特別な人間になりたいと改めて思った。
自分の存在価値について考えさせられるきっかけとなったクリスマスだった。
同じタイミングで仲のいい同期もコロナに罹って休んでいたことは出社してから知った。
謎に遊んでいたのではないかと疑われ、2人して在らぬ疑惑を笑い飛ばしたのが懐かしい。

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その次に思い出したのは、4年前のクリスマス。
社会人2年目にして少しずつコロナのおさまりも見え始め、その年は初めてクリスマスマーケットへと行ってみた。女友達と2人で。

当時は25歳と27歳だった私たち、17時から居酒屋で一次会を果たすと、華麗に煌めくイルミネーションの世界へと旅立った。

その日はすごく寒かった。次の日は朝6時から仕事だった。
周りには自動暖房機かと思うくらいインマイワールドなカップルだらけだった。
そんな場所でホットココア片手にソーセージやポテトを食べながら、仕事や恋愛について語った私たちがあの夜誰よりも輝いてたと思う。
馬鹿みたいに夢を見て笑っていたあの瞬間の幸せを不意に思い出した。

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同じタイミングでコロナに罹って休んでいた同期は、来年の春ママになる。
馬鹿みたいにはしゃいでいた友達は、仕事を変えて楽しい日々を送っている。
自分も仕事も何もできない若手から、資格をとり少しずつ仕事の中核へと入っている。
たった数年の話だが、数年もあれば人は変わる。

何気なく生きていれば思い出すこともなかった何気ない思い出たちが、ゆったりとした時間の中でぽつりぽつりと思い出される。
毎日を生きていると、どうしても嫌なことや苦しいこと、悔しいことに思考が支配されて温かい思い出というのはかすみがちだ。
それでもこうしてふと立ち止まって振り返ってみると、淡い、温かい思い出が自分にもあることを思い出させてくれる。

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生きることに精一杯で振り返ることの少ない毎日だったからこそ、脳をゆっくり休めて人生を振り返る機会を神様がくれたのかもしれない。
久しぶりに起こした体はウルトラマン並みの体力しか無いようで、まもなく再びベットへと潜り込むことになりそうだ。

薄れゆく意識の中で、今日思い出した温かい思い出を抱いて、身も心も温かいクリスマスを迎えるとする。
メリーインフルスマス!