どうしようもなく仕事が辛くて、塞ぎ込んでしまったことがある。
夜になると毎晩泣いていた。
朝が来るのが嫌で眠れなかった。
夜の静けさが無性に怖くて、目の下にクマを作りながらYouTubeの動画を流し続けた。
なんで眠れないんだろう、私は何をしているんだろう、明日なんて来なければいいのに。
不安でボロボロだった。
そんな私を変えたのは、無意味に垂れ流しているだけのはずだったYouTubeの動画のひとつだった。

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「綺麗な歌声だな」

そう気づいた瞬間、彼の歌に夢中になった。
全く知らない曲、初めて耳にする歌声なのに、まるでそれを待ち望んでいたかのように聴き入ってしまう。
私の脳内が一気に彼の歌声で埋め尽くされる。
心に響いた、とはまさにこういうことを言うんだろう。
今までどんな動画を見ても面白さや楽しさを感じられなかった。
それどころか、画面の奥の明るい世界との温度差に打ちのめされて、ただただ虚しさを募らせていくだけだったのに。
彼の歌声だけが、私に立ち塞がる障壁をいとも簡単に乗り越えてきたのだ。

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そこから、無我夢中になって歌声の主について調べた。
彼はVtuberだった。
歌うだけではなく、トークやゲーム配信などマルチに活動している配信者。
知れば知るほど彼のことが好きになった。
気づけば彼が推しになった。
彼の姿も、声も、人間性も、全てが愛おしくなった。
どんなに辛くても、彼の動画を見ると自然と笑顔になれる。
私のモチベーションが「彼」という存在になるのに時間はかからなかった。

そんな彼が、先日1stソロライブを開催した。
泣きながら動画を流していたあの夜に見つけた、綺麗でまっすぐな歌声。
その歌声がステージの上で響き渡る。
とんでもなく眩しかった。
涙が止まらなかった。
この歌声をもっと聴き続けたいから。
これからもどんどん大きくなっていく彼の姿を応援し続けたいから。
私も一緒に頑張ろうと思えた。
それは、明日が来るのが怖いと毎晩泣いていた私からは信じられないことで。
真っ暗だった私の世界の中心に突然降り立った彼は、私の世界を瞬く間に彩り溢れる眩しい世界に変えてくれたのだ。

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今でも不安症は完治していない。
怖くて眠りたくない夜もある。
涙が止められない日もある。
でも、動画を開けば、いつでも彼が背中を押してくれる。
彼を見ていると、怖いけどもうちょっと頑張ってみようと思える。
あの夜、彼と出会えて本当に良かった。
彼を見つけて好きになったことは、間違いなく私を変えて、私を救ってくれた。

愛と呼ぶにはあまりにも重くて一方的過ぎる感情だ。
とてもじゃないけど、本人に直接伝えるなんて恐れ多い。
でも、この世には『推しは推せるうちに推せ』なんて言葉もある。
伝えておけば良かったなんて後悔するのは嫌だから、ここくらいでは素直に言わせてもらおうと思う。

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あの夜、私に歌声を届けてくれてありがとう。
いつも背中を押してくれてありがとう。
あなたが私に救いをくれたように、私もあなたに愛を送り続けるよ。