その日は珍しく雪が降って、電車が止まるほどに積もった。次の日はテストだったが、同じ寮に住む彼が私を「雪だるまを作ろう」と言って誘いだした。

寒いよと返事をしつつも、最大限の防寒をして、外に出た。雪だるまを作るなんて、小学生以来だった。彼はその場にいた同じ寮の友人も誘い、みんなで近くの川沿いまで歩いた。

道路のあちらこちらに特大の雪だるまが作られていた。考えることは皆同じのようだ。雪だるまだけではなく、キャラクターを作ったりなど、色んな人の傑作が街中の至る所に見られた。

私たちは、道路の上に積もった雪に飛び乗ったり、雪合戦をしたりしながら川沿いまでいった。私と友人はケラケラと笑いながら走り、その様子を彼は写真に撮った。川沿いに到着すると、作れるだけ大きな雪だるまを作った。

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もう5年近くも前のことだろうか。当時の写真を見返すと、あの時は本当に楽しかったのだとよくわかる。心からの笑顔がそこに写っている。今でも雪が降るとその日を思い出す。

それから数週間後に彼とは別れた。あの日が嘘のように、彼は急に私に冷たくなった。理由はあとから知ったけれど、もう過ぎたこと。別れた理由そのものに関してはもう特に何も思っていない。

ただなぜか、その彼をどうしても忘れることができない。きっと、あの日が本当に楽しかったからだろう。あの寒かった雪の日にくれた彼の暖かさは消えることはない。そんな魔法に取り憑かれてしまったようだ。

いつか彼とまた巡り会いたいと思っていたからだろうか。別れて5年近く経って、再び夢に現れるようになった。そして、まさかの再会を果たした。思いもよらない再会に、全てがスローモーションのようだった。

次会ったら別れた理由や当時のことを問い詰めようと思っていた。しかし、悪者にはなりきれず、談笑してその場は別れた。

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あの雪の日、彼は何を見つめていたのだろうか。何を写真に撮っていたのだろうか。後に彼の今カノとなる女性をあの場に誘ったのはなぜだったのだろう。今更とわかっているけれど、私の思いを、当時傷ついたということ、彼にぶつけたくなる。

なぜ今更当時のことを思い出してこれだけ苦しまなくてはならないのか。当時、別れて初めて彼のことが大好きだったことに気がついた。でもそう言われると、彼に好きだとか、I love youだとか、そう言った愛の言葉を伝えたことがなかった。でももうあの頃には戻れない。私はあの雪の日の記憶のまま、これから生きてかなくてはならない。

これだけ執着するのは、その後、新しい彼ができなかったからだろうか。好きな人はできたし、好かれたこともあった。ああしとけばよかったと後悔してる恋愛なんていくらでもある。でも、そうであっても、この彼がどうしても忘れられないのは、どうしようもない贖罪と、傷ついたという事実と、手を繋ぐ以上の身体接触がなかったゆえかもしれない。

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最近、知人に男性を紹介された。その人は優秀で、将来も有望で、優しい。生理的に無理とかでもない。相手がどう思うかはわからないが、私的には悪くない相手。それでも、その新しい出会いを進めようとすると、あの時の彼が心の中から出てきてしまう。まるで洗脳でもされているかのように。

今年も雪が少しだけチラついた。雪を見ると、あの日の記憶が蘇る。楽しかった。本当に出てくる思いはそれだけなのだ。過去は美化されるのかもしれないが、新しい雪が過去の記憶をこの先幾年も消してくれるようにと私は強く願っている。