あれは私が小学生の頃。東京の田舎にドカ雪が降った。
何十年に一度降るか降らないかの積雪量ですとの報道。街は辺り一面銀世界になった。
◎ ◎
東京都心部は当時あまり雪が降らず、降っても積もることはなかった。一方で、私が住んでいた東京の田舎では、雪が降る時はうっすら積もるぐらいで、次の日が晴れているとすぐに溶けてしまうぐらいであった。
そんな地域に住んでいた私にとってその雪の日は特別だった。
家の前の駐車場に雪がどっさり積もってしまったため、雪かきしないと車が出せない状況だった。
「雪かき手伝ってー」
と両親はスキーウェアや手袋やら帽子やらを押入れから引っ張り出して私と弟に与えた。
今の私なら寒がりなので、ストーブの前で温まってみかんを食べるだろうが、当時の私は雪に触りたい一心で有無を言わさずスキーウェアを着て手袋をして勢いよく弟と一緒に家を出た。
足跡も何もついていない、雪の上にダイブした。冷たいけど、冷たさを忘れるほど最高に気持ちよかった。
「ねーねーかまくらつくろうよ」
弟が誘ってきた。
大賛成!2人で周辺の雪を集めて駐車場の端に作り始めた。穴を掘って固めてを繰り返す。
その横で両親は必死に雪かきを黙々と進めていた。雪かきをすることも忘れてただひたすらにかまくら作りに夢中だった。
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かまくらが完成した頃、両親はもう家に入っていた。
まだ遊び足りない私たちは、人がまだ踏み入れていない雪場を探した。そういえば、庭ってどうなっているんだろうかと2人で見に行ったら、ふっかふっかの真っ白い景色が一面に広がっていた。
「うわーい」
2人でまたダイブした。
イタズラ好きな弟は雪を投げてきた。そして雪合戦が始まった。雪が大量にあったので自分の陣地を雪で作りながら雪合戦をした。たまにウェアの隙間に雪が入って冷たくて凍える。それでも投げ続けた。
ちょっと腕が疲れたところで、
「ねーねー滑り台作れそうじゃない?」
また弟が誘ってきた。
いいじゃん!やろうよ!いいアイデアを次々と出してくれる弟に便乗した。
滑り台を作る時に、滑る部分を平らにしたかった。手でやるにも限界があり、そこで登場したのがソリである。ソリの平面の部分を使って雪を叩くとなんと平らになったのである。ぱんぱんという音を立てながら滑る部分を作る。
それを家の中で見ていた母が
「職人だねー!ぱんぱん師だ!」
この日2人は滑り台を作るためのぱんぱん師という職人になった。
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この日以降、こんなに雪が積もることはなかった。だからこそ、十何年過ぎた今でも鮮明に覚えている雪の日なのであろう。あの時のワクワク感や楽しさはたまらなかった。
子供にとって雪は、憧れであり楽しみである。
今となっては、寒くて交通の便も乱れるし、会社に行くにも億劫になるから嫌な存在になることがほとんどである。
でもたまに、子供の頃の雪の日の思い出を思い出すと少しほっこりしてしまう自分がいる。
今シーズンも東京にまた雪が降るのかな。そうならば、多くの子供達の目を輝かせてほしい。