私にとってのクリスマスは、民家を飾るイルミネーションだ。

9月の秋分から徐々に日が短くなり、12月ともなれば夜が一番長くなる時期となる。
せっかく定時に仕事場から出ても、すでにとっぷりと日は暮れたあと。にぎわう最寄り駅を降りてから、人気のないまっくらな住宅街をとぼとぼと自宅に向かうわびしさが苦手だ。
そのわびしさを吹き飛ばしてくれるのが、民家のイルミネーションである。
11月後半ごろからちらほらと、何の変哲もない住宅街にぴかぴかした色とりどりの灯りがともりはじめる。駅前の商業施設では一層華やかなイルミネーションが光るけれども、帰り道を最後まで照らしてくれる民家のものの方が私は断然好きだ。

小さい頃からイルミネーションに憧れがあり、実家でもさんざん「やりたい」とごねていたが、「電気代の無駄」と親に一蹴されてきた。それもあってか、毎年イルミネーションを出す家が増えてくると、帰り道は普段と違うルートをたどりつつ、住宅街のイルミネーションマップを頭の中に作る癖がついてしまった。

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そうやって色々なイルミネーションを見てきたが、とりわけお気に入りなのは、はしごをのぼる3体の光るサンタの装飾だ。3人ではなく3体と書いたのは、それぞれのサンタが上、真ん中、下と順に光ることで、1人のサンタがはしごを降りる、連続的な動きを表しているためである。
この装飾は結構流通しているのか、地元の関西でも、大人になってから住み始めた東京でもよく見かける。ちょっと検索してみると、「はしごサンタ」という名前で売られているようだ。
大抵の家では、サンタはきちんと上から下へ、あるいは下から上へ行儀よくはしごを上り下りしているが、たまに真ん中がパッとついて、下が光ったあといきなり上へ、というように瞬間移動を繰り返すサンタ、あるいはいっぺんに全部光り、同時に3人が存在するサンタもいる。サンタ大盤振る舞いだ。

そしてイルミネーションの一番いいところは、クリスマスの終わりと共に消えないことである。12月25日を過ぎたとたん、洋菓子屋からはクリスマスケーキがぱっと無くなり、“Merry Christmas!”と書いたポスターを至る所に貼っていたデパートもすっと大晦日仕様に切り変わる。
その速すぎる変わり身についていけず、しかも寒さはあと2か月以上続くという現実に打ちのめされるので、12月26日は例年あんまり好きではない。
だが、イルミネーションは違う。はしごサンタやトナカイなど、あまりにもクリスマス色が強いものはさすがにすぐ片づけられるけれども、単に色とりどりのLEDを並べたものはそのまま2月くらいまで光っていることが多い。

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子どもの頃は、単に師走末の忙しさで家主が片づけ忘れているだけだと思っていた。だが、大人になって年々冬の寂しさ、夜の長さが骨身にこたえるようになるにつれ、あのイルミネーションは冬を生き抜くための知恵なのかもしれないと思えてきた。
クリスマスが過ぎ、徐々にまた昼が長くなっていくとはいえ冷え込みはつづく。正月が過ぎてしまえば華やかなイベントもなく、粛々と冬の日々を耐えていくしかない。そんな日常に少しでも対抗し、気持ちを明るくするために、彼らは灯りをともしつづけてくれているのかもしれない。

そう思ってから、12月26日以降のイルミネーションを見る度に、クリスマスギフトをもらった時のような嬉しさがほわんと心によみがえる。
灯りをともしてくれてありがとう、春まで一緒に何とか生き抜きましょう。