雪といえば、わたしは一番に思い浮かぶことがある。かなり新しい記憶だ。だけどこの先何十年と雪を見るたび思い出すかもしれない。わたしにとっては、大切に扱い続ける記憶だ。

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2月上旬だった。前日の夜にたんまりと雪が降ったので、道ばたのあちこちには溶けずに済んだ雪のカタマリが鎮座していた。関西のわりと暖かい地域に住む者としては新鮮でちょっぴり嬉しくてウキウキしてしまう。わたしの場合、雪が積もるって特別なのだ。

この日はバイトの面接を受けた。面接に向かう際予定していた10分前になって面接会場到着に間に合いそうにないと気づき雪道を小走りした。ズルっと靴底が滑ってバランスを崩したが、まだ20代の重心はなんとか持ち直してくれた。ドッドッと心臓が震えた。本当に雪に慣れていないなら雪道で走るべきではない。寿命が縮んだような思いをした。

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バイトの面接を終えた。電車に乗って帰宅する。なんか、採用される気がするなー。と浮足立ちながら電車に揺られていた。若干ニヤついていたかもしれない。

最寄り駅のひとつ手前の駅で降りた。理由はなんとなく以外はない。強いて言うならバイトの面接に手応えがあり気分が良かったので、身体を動かしたくなったからかも。セーターの上に膝までのロングコートダウンを着こみ、長ズボンに、裏起毛靴下に革のパンプス。手袋も装着していた。唯一肌が出ているのは顔だ。ホームを出て改札を抜けるまでに顔が痛いほど寒い冬の風におそわれた。

ひえ〜と心の中で叫ぶ。

寒すぎるんよ!

電車内は暖かかった。ホカホカとあたたまった肌に対する拷問である。

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顔を足元に向けて、羽ばたいたら今なら飛べるんじゃないかってくらいの強さの風に耐える。髪が勢い良くピューッと靡いてごっそり抜けちゃったらヤダなーと非現実的なことまで考えた。

駅の外では雪のカタマリがあちこちに蔓延っていた。白い雪は靴の跡と黒い汚れがハッキリと「ここを踏まれました!」と主張していて、せっかく白くて綺麗なのに勿体ないと感じた。
強気だった風がどことなく控えめに吹き出した。頬の感覚はほぼなくて、じんじんはしているが寒いとかは感じなくなっていた。ふと道の端を見ると、人工的に生みだされたまるっこいフォルムの雪が仲良く寄り添うように並んでいた。

雪だるまだー!!

テンションが舞い上がった。かわい〜〜〜!!

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雪だるまは2つ並んでいた。右の雪だるまは中型犬くらいのサイズだ。雪だるまのボディ玉(下段)とフェイス玉(上段)の形がガタガタと歪だったが、あたたかみのある愛嬌をかんじた。よくわからない木の実の瞳と、口角が上がった木の枝の唇が味わい深い。

左の雪だるまは機械で作ったような几帳面さが見てとれた。雪だるまのボディ玉とフェイス玉が均一のサイズかつ滑らかにまるく仕上がっており、大変見事だ。木の枝の糸目と、木の枝のV字のニッコリした唇が癒された。まるでコタツに入ってあたたまる人間のようだ。

誰が作ったのだろう。1人で作ったようには見えない。親子だろうか?カップルだろうか?友達同士だろうか?仲良しな誰かが楽しく雪だるまを作ったのだろうな。雪だるまを眺めていると、作り手の笑い声が聞こえてくるようだ。

いつのまにかグレーの分厚い雲から太陽がひょっこりと出ていた。太陽の光が2つの雪だるまをキラキラ照らす。白くて綺麗だなと思って、微笑ましくて「ふふ」と笑った。

ここを通る誰もが、雪だるまを汚さないようにそっと見守りながら歩いたのだ。

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後日、3日も経たない内にバイトの面接を受けた会社から採用の連絡が来た。やったー!ハッピー!採用後即日勤務する予定なので、出勤する日も雪が積もるかもしれない。

わたしも雪だるま作ってみようかな〜と鼻歌をうたいながら考えた。

結局作らなかったが、雪が積もった日には今年こそ雪だるまを作るかもしれない。

楽しみだ!