気温は氷点下。雪の上に崩れ落ちたとき、あのお兄さんのことを想った
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雪を見ると思い出すことがある。
高校2年生の時、 家庭環境の問題の不安からか部活の不安か、勉強の不安かわからないけれど上手く息ができないことがあった。
あの日は、部活で帰りが遅くなってスクールバスはもう無くて、路線バスで帰らなくてはいけなかった。
路線バスのバス停はスクールバスとは違って家から一番近いバス停が大きな公園の向こう側に位置していた。家まで公園を突っ切っても徒歩25分強かかる。
しかもその日は雪が降っていて公園にはわずかな街灯しかない。
家に近づくにつれてなぜか不安も募る。 気がついたら上手く息ができなくなっていて、私は雪の上に崩れ落ちるしかなくて。
気温は氷点下。
制服は雪に濡れ、身体はどんどん冷えてゆき、呼吸はつらく、涙が出てくる。
30分ほどでおさまるとわかっているが不安も募る。
このまま寒さも相まって私の人生が終わってしまうのではなかろうか。
それでもいいかと思った。そうなってほしいと思った。
そうなってはいけないと知っていた。
あのお兄さんみたいだなと思った。
中3の塾帰りのこと、 その日は私の誕生日だった。
母が車で迎えにきてくれて、信号待ちをしていた時視界の端で何かが動いた。
雪の積もった横断歩道で何かが動いている。
倒れている人のように見えた。
「お母さん、あそこで動いているのって人じゃない?」
母は急いで車を車道の端に停めて私たちは車を降りた。
雪が降る中、仰向けに倒れ込んでいる男性がいた。男性の上には雪が積もっていた。
救急車を呼んで、 雪を払って、車に布団はなかったので座布団をかけた。
救急車が来て、降りてきたおじさんは「〇〇くん、またなのかい」と言う。
どうやらもう何回も自殺を試みては誰かに見つかって救急車を呼ばれているらしい。
中3の私にとってはショックな出来事だったようで、あのお兄さん元気かな、生きているかなとたまに思い出す存在となった。
あのお兄さんも今の私みたいに寒さで凍えていたのだろうか。
私は呼吸が整うまで寒さを耐えた。
手足の痺れと硬直がなくなって動かせるようになると、立ち上がり、再び帰路に着いた。
なんとか帰宅し誰もいない家の電気をつけて床に崩れ落ちた。
カーペットを敷いていない部分なのに暖かく感じた。
もう呼吸は苦しくないのに何故だか涙が溢れた。
生きてしまった。
ほっとしたような、希望を失ったような混沌とした思いが頭を占めていた。
また明日からも同じ毎日が続く。
私が雪の中倒れていたことなんて誰も知らずに、日常が続く。
より一層、独りだと感じてしまって寂しくて、心も寒くてどうしたらいいかわからなかった。
あのままあの公園で倒れていたら私は寂しがりの幽霊になっていたのだろう。
きっと幽霊になってからも寒くて寂しくて悲しくて 苦しかっただろう。
そう思うと少し怖かった。
体の具合が良くなってから少しでも落ち着くためにホットココアを淹れた。
ホットココアは甘くて温かくてまだ数日は帰ってこない家族との思い出が恋しくなった。
寒い冬の夜の出来事だった。
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