北海道は、10月中旬でも、もう秋と冬の境目にいる。

先週は、旭川付近の人口わずか1300人の、毎年積雪で有名な小さな町を訪れた。そこには、Iターンした知り合いがおり、通りがけに少し寄ってみた。

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毎年3メートル以上雪が積もる、この豪雪地帯になぜ住もうと思ったのか?はじめて、膝をつきあわせて会話した気がする。たしかに、彼のようなIターン者では雪かきになれておらず、ワンシーズン数万円を払って業者に雪かきをお願いしているようだ。人口減少している町だが、冬場はあまりの積雪で屋根が崩れてしまうため、空き家も即座に解体するのだそう。

冬は-40℃、雪質は純白のパウダースノー、たまにダイヤモンドダストが舞う。移住した当初は、冬はほんとうに絵本の中にいるような、まるで幻のような白銀の世界だったそうだ。

そんな厳しい寒さの中でも、なぜこの町に住み続けようと思っているのか?彼に聞いてみた。

「本当になにもない、いわば限界集落に近い町なんだけれど、僕はここの冬が本当に好きで。」とくに、周りの雪がすべて音を吸収するので、朝も夜も人間世界とは思えないほどしんとした、静けさに満ちている銀世界だそう。

朝は自宅の窓からこぼれる光や家の前の白樺がこおっているのを眺めながら、ゆっくりコーヒーを一杯飲みながら読書し、夜は夜で自宅内にジャズを流しながらウイスキーを飲む。そんな時間や空間が、特別なのだそう。

それを聞いて、私はなるほどと妙に納得してしまった。

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一方、今週は稚内など北海道の北の方、宗谷管内に来ている。稚内は、日本最北端の地で、右手に風車、左手に稚内湾の広大でまっすぐなドライブロードが有名な場所だ。ここも冬は強風でホワイトアウトする。

稚内市は人口約3万人いる都市で、JRも通り、映画館や飲食店もあり、車の車線も片道で3車線あるような立派な市街だが、それとは裏腹、夜のドライブロードは、まるで物語の中にいるような漆黒の夜空と広大な海で、無数の星が輝いている。

もともと漁師町で、晴れていれば沿岸から樺太ものぞけるような港町だ。

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夜の稚内市を二人で車で運転すると、空の広さと海の平坦さと辺り一面、フィルムのような漆黒さとおびただしい数の小さな星に、プラネタリウムではない、ほんとうに自然の小宇宙に包まれているかのようだ。

そんな、ロマンチックな壮大な夜の稚内ロードで、わたしは決まってアイスカフェラテをのむ。毎回、道の駅でアイスのカフェラテを買い、一緒に助手席にのる同僚はブラックコーヒーを注文して、夜の稚内市をわくわくしながら、目を覚ましながら出発する。

お互いの自宅がある札幌までは330kmあり、車で約5時間かかる。

稚内を経ち札幌へすすめば進むほど、夜が深まり、やがて空が淡色の朝焼けに移ろいはじめ、札幌に着く頃にはサンサンとした太陽に出迎えられる。

11月頭もまた稚内にいくが、その頃はもうすっかり雪が降ってるかもしれない。今度は、ホットカフェラテを注文して道内行脚しようと思う。