借金していることを彼氏に言えないまま、私たちはもうすぐ家族になる

「結婚すると、財産はふたりのものになります。収入も負債も、ふたりで責任を持って背負います」
婚姻届を取りに行ったパートナーが一緒に持ち帰ってきた役所パンフレットに、そのような記載があった。どきり、と、妙な緊張感が走った。
私は今、消費者金融で借金をしている。残債額はひと月分の給料にも満たない額だ。これまで滞りなく返済できているし、安定した収入もある。自分の問題を自分で解決しているのだからそれでいいと思っていた。
けれどそれが「婚姻」という法律上のつながりが生まれてからは、そんな言い分は通らない。現実をまざまざと突きつけられたのだ。どうしよう。隣にいるパートナーにこの動揺を感じさせまいと、平静を装うのに必死だった。
きっかけは2年前の秋、「ああ、来月のお金払えないな」と思ったことだった。単純明快、9割5分の人が借金をする理由に、例外なく私も当てはまっていた。
当時はフリーランスを目指している時期だったが、収入のほとんどは失業保険で賄っていた。稼いだ分を毎月全額使い倒す、そんなギリギリの生活をしていたところに、税金の2ヶ月分の請求が重なった。けれど、お金が足りないからといってたとえば日雇いの仕事で穴埋めする気にもなれなかった。当時の私はお金よりも時間が惜しかった。お金だけのために自分を犠牲にすることは、したくなかった。
初めて消費者金融を検索にかけると、最短で本日中に借りられることがわかった。しかも、難しい手続き無しで。こういうのはこまめに借りたら止められなくなると思って、一気にまとまったお金を借りた。意外とすんなり借りられた。何もしていないのに銀行にお金が入っていたときは、よくない感情だとわかっていながらも、心が躍った。
別に借金くらい、と思っていた。
もちろんここでは、借りたお金を全額ギャンブルに注ぎ込んで、返せないまままた借りて、という類の借金を賛成しているわけではない。「人様に迷惑をかけない範囲で借りて、定期的に返せるのであれば、多少は構わない」といった意味だ。年齢は黙っていても増えていき、「若いから」でできることは放っておいてもどんどん減っていく。今しかできないことを、お金を理由に諦めたくなかった。
けれど私はその考えをパートナーに今まで言えずにいる。一度借金について話したとき、彼はとんでもなく借金に憎悪的であることがわかったからだ。彼は親の借金のせいで家庭がおかしくなったという。
借金をパートナーに黙っているわけにはいかない。けれど、もし彼が知ったら?「やっぱり結婚は辞めよう」と言われるのではないか?
ところで適度な借金は肯定している私も、後ろめたい気持ちはある。一昨年の12月からはマネースクールに入って家計管理方法を身につけたし、FPの資格も取った。けれど、なぜか一向にどうにもできないのだ。そのことを「子どもの頃はお小遣い制じゃなかったから、金銭管理に慣れていない」だとか、過去のせいにしていたこともあったけれど、いい加減もうそこまで幼稚にもなれない。
そう思っているうちに、家族になる日は確実に近づいていた。
婚姻予定まで2ヶ月に迫った今年の1月、私は「家計でお金をどのくらい使っているか把握しよう」とパートナーに提案して、家計簿アプリを一緒に入れた。今後の家計管理について、「共通の口座をひとつ用意してそこに各自定額入金する」ことに決めたからだ。
「エビアンはしっかりしているね。俺こういうの初めてやるよ」パートナーは感心してそう言ってくれたが、私はその言葉に胸が痛んだ。私は感心されるに値しない。だって、自分のお金の管理すらできない、だらしない人間なのだから。
当分借金のことは言えないけれど、少なくとも今年中には完済して、何事も無かったかのようにしたい。そんな考えは、甘えだろうか。
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