私の勝負メシは、あまからハンバーグだ。

レシピはとてもシンプル。合挽肉に、牛乳に浸したパン粉と卵を繋ぎとして入れ、味付け部隊として砂糖と醤油を投入。よくこねたら、お弁当サイズの小さな小判型に成形し、フライパンで中までしっかり火を通す。

見た目こそ味気ないけれど、ケチャップやソース要らずで砂糖の甘さと醤油のしょっぱ辛さがしっかりついた、ちょっと和風なハンバーグになるのだ。

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もともとは祖母が生み出した料理らしい。

祖母が母にしていたように母も、私が小学校入学から高校卒業まで、何か気合を入れたい日にはいつもお弁当に入れてくれた。しかも作り置きは味が落ちてしまうから、早起きしてお肉をこねるところからやっていたらしい。

運動会の日、塾の模試の日、入試本番の日、学校で嫌なことがあって泣いた翌日。お弁当の蓋を開ければ、小さくて丸くて茶色いハンバーグがあった。甘辛い味は、母からの「がんばれ」の味だった。

このハンバーグを食べれば、一度は疲れてしまった身体や心も「大丈夫な気がする」と、しおれた葉っぱが生き返るみたいに回復するのだ。

いつからか、私にとってあまからハンバーグは薬みたいに拠り所になっていたし、わざわざ母に「あまからハンバーグが食べたい」と言わなくても、いつでもここぞという時には当たり前にお弁当箱に鎮座していた。

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大学はずっと学食だったのだが、社会人になって自分でお弁当を作るようになった。

社会人1年目だった頃、週5日の出社が少しでも楽しみになるように、私は母にざっくりとレシピを教わって、初めてあまからハンバーグ作りに挑戦した。

実際に作って実感したことがある。

冬場に挽肉をこねると手が真っ赤にかじかむこと(最初、私は30秒でギブアップした)。
挽肉をきちんとこねるのには思いのほか時間がかかること(ここをさぼると焼いた時に硬くなって後悔する)。
シンプルだからこそ、砂糖と醤油の繊細な塩梅が味を左右すること(母に分量を聞いても「分からない、適当」としか返ってこなかったので困る)。
砂糖が入っているから油断してフライパンから目を離すと真っ黒に焦げること(裏返せば見た目はごまかせるけれど)。
私が作るよりも母が作った方が美味しいこと。

いつもお弁当に入っていたあまからハンバーグには、こんなにも労力が、いや愛情が注がれていたのだ。恥ずかしながら、私はその時初めて身をもって実感したのである。

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2025年、社会人3年目がもうすぐ終わろうとしている。

あまからハンバーグは私のお弁当の常連メンバーになった。

この前、私が作ったあまからハンバーグを母に食べてもらったら、「私が作るより美味しいじゃん!」と言って食べてくれた。自分では全然そうは思えないけれど、私もたくさん愛情込めたからかな?

いつかこのハンバーグが、またひとつ世代を超えて届く日とか来るのかな…そうなったらいいな……と遠すぎる未来を考えたりもした。

お母さん、ありがとう。