部活をサボってファミレスへ。何度か繰り返した末に止めた理由は

高校2年生のとき、私は生まれて初めて1人でファミレスに入った。「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えてくれる店員さんに対して、涼しい顔をして会釈している私。表には出さなかったけれど、心臓が飛び出しそうなくらいバクバクしていた。家族で行くときとは違って、席に着いてからも妙な緊張感があった。なぜなら、私は部活をサボってここにいるのだから。
秋と冬の間の、ちょっと肌寒い時期だった気がする。大して強くもない部活なのに、休日にも朝練があることに嫌気が差していた。男女一緒に活動していたのだけれど、関係性がイマイチで同性の中に苦手な子がいたのも理由の1つ。3年生の先輩たちがいれば、まだ楽しめたかもしれない。でも、残念ながら、夏の大会を最後にみんな引退していった。憧れて入った部活は、今や内申のためにいるだけ。私は「行きたくないな」と思うようになった。
普段の授業の予習や復習、宿題。テストや模試の対策。翌年に迫る受験に向けての勉強。さらに、家庭教師からの宿題。担任や家庭教師、母親からのプレッシャーも含めて、私はかなり追い詰められていた。もっと時間を増やさないと、そのときの私の精神状態ではすべて捌ききれないと感じていた。部活に行くはずなのに、気づいたらバッグに入れたユニフォームの下に、勉強道具一式を忍ばせていた。
母には元気に「行ってきます」と言っておきながら、自転車でファミレスへ直行。部活の部長には、事前に体調不良で休む旨を連絡しておいた。もちろん仮病なので、実際の私はピンピンしている。部活に行かなくていいからか、すごく気分が良かった。
モーニングの時間帯で店内は空いていたので、初めてサボった日は私とおじさん1人しかいなかった。とても静かだったので、勉強するには最高の環境だと思った。ポテトやスイーツ、ドリンクバーを挟みながら、3時間みっちり勉強に集中した。ポテトはメニューの中で1番、スイーツ(ケーキ)はその次に好きなメニュー。家族と一緒のときは、いつも「美味しい」と笑顔で食べているけれど、このときは全然違った。
私が行ったのは、家から15分ほどの場所にある店舗。もしかしたら、近所の人や同校・他校の友だちが来るかもしれない。家族がたまたま買い物で店の前を通ったら、見つかってしまうかもしれない。しかも、真面目に生きてきた私が人生初のサボりをしている。不安と罪悪感からか、あんなに大好きなメニューなのに、あまり美味しさを感じられなかった。ほぼ、ドリンクで流し込んでいるような感じだったと思う。
朝練が終わる12時になり、私は会計を済ませてファミレスを出た。さっきまでのモヤモヤした気持ちはなくなっていて、清々しい気分だった。勉強がかなり捗って達成感に満ちていた。帰宅にはまだ早いので、人通りが少ない道をゆっくり通りながら、遠回りして帰った。何食わぬ顔で「ただいま」と言って、ユニフォームを洗濯カゴに入れた。母には事前に用意しておいた部活の話をして、あたかも頑張ってきたかのように振る舞った。母にはサボったことは言っていないし、気づかれてすらいなかった。
その後も3回ほど色んな理由をつけて、同じようにサボった。普段、真面目に取り組んでいるので部内でも全然疑われなかった。悪いことをしているはずなのに、ワクワクしている自分がいた。勉強がどんどんできるようになって、成績は上がっていった。ストレスが軽減して、メンタルも安定していった。いいことだらけなので、もっとサボってしまおうかと考えた。
いい方向に向かっていたけれど、私はそれ以来、部活をサボるのをやめた。何回かファミレスで過ごす中で罪悪感が薄れてきたのか、最初よりはポテトとケーキを美味しいと感じられるようになった。でも、やはり普段通りとはいかなかった。不安と罪悪感が残ったままではなく、何も煩わしいことがない状態で好きなものを美味しく食べたい。だから、私は部活を頑張るようになった。受験には失敗したけれど、結果オーライだったので後悔していない。
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