彼女の好きな人は私。ぎこちなくなるのが怖くて知らないふりをした

「ねえ、みんなの初恋っていつ?」誰かの何気ない一言で、初恋の話が始まった。「私は小学生の時!」「えー私は、中学に入ってからかな」「今好きな人いる?」……みんなが楽しそうに話す声を聞きながら、私は彼女の膝の上でうたた寝をしていた。心地よいぬくもりに包まれて、意識がだんだん遠のいていく。
「好きな人って、もしかして……?」すぐ近くで声がする。「うん」一瞬で、眠気が吹き飛んだ。でも、私は目を開けられなかった。ただ、寝息を立て続けることしかできなかった。
それから私は、どう接したらいいのか分からなくなってしまった。小学校からずっと一緒だった友達。中学に入ってからは同じ部活で、ほぼ毎日顔を合わせていた。私にとって彼女は、いつもそばにいる大切な存在だった。
でも「恋愛感情」として見られていることを知った瞬間、その関係がぎこちないものになってしまった。私はそれまで、好きになるのは異性が当たり前だと思っていた。だから、大好きな友達にそういう気持ちを向けられていると分かって、戸惑ってしまった。
……いや、違う。戸惑ったのは、彼女が女の子だからではなかった。
私にとって彼女は、もともと「女の子らしい」とか「男の子っぽい」とか、そんな風に区別する存在ではなかった。ただの「彼女」だった。でも、私は彼女のことを友達としてしか見ていなかった。友達だと思っていた人に、恋愛対象として見られていた。そのことが怖かったのかもしれない。
知らないふりをしたまま、今まで通り接しようとした。でも、無意識のうちに距離を取ってしまう自分がいた。ぎこちなくなるのが怖くて、結局「知らないふり」を続けるしかなかった。
そんなふうにモヤモヤしたまま、一年以上が過ぎたころ。風のうわさで彼女の好きな人が変わったことを知った。
その瞬間、私はホッとしてしまった。
あんなに大切な友達だったのに、彼女の気持ちを知った途端、どう接すればいいか分からなくなってしまった自分。ずっと悩んでいたのに好きな人が変わったと知ったら、すぐに「今まで通り」に戻れるようになった自分。
私は、彼女に「色メガネ」をかけていたわけではなかった。むしろ「同性に好かれること」=「特別なこと」と思い込んでいたのは、自分ではなく周りの価値観だったのかもしれない。でも、好きになるのに性別は関係ない。私が戸惑ったのは「女の子なのに好きなの?」ではなく、「友達なのに好きだったの?」だったのかもしれない。
友達は、友達のまま。仲がいい=恋愛ではない。
そう信じて疑わなかった私にとって、彼女の気持ちは何よりも意外なものだった。もし、逆の立場だったら?もし私が友達のことを好きだったら?そう考えたとき、やっと自分の思い込みに気付いた。
高校生になったころ、彼が自分のことを話してくれた。でも、私にとってそれは「何かが変わった」出来事ではなかった。
彼はもともとボーイッシュな子だったし、「女の子」「男の子」と意識したこともなかった。だから性別が変わったと言われても、私たちの中で彼はずっと「彼自身」だった。私は彼の初恋だったのかもしれないけど、それについて知らないふりを続けることで、あの時の戸惑いや悩みもそっとしまっておけるのかもしれない。
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