「男は~とか、女は~とかばっかり、俺個人がどうかは知ろうともしないよね」

これを言ってきたのは、今となってはどうでもいい男性なのだが、言葉自体が今でもグサッと刺さって抜けない。

私は、「女だから~できない」という言葉が一番嫌いなのに、こと男性に対しては自分がされて嫌だったときと同じように、男性という性別で括ってしまうところがある。

女性だから出世はある程度で諦めて出産をしないといけない、性的にオープンになってはいけない。令和だしもう男女平等は達成されましたと言わんばかりにドヤ顔をしている大人たちの裏側で私はこんな価値観を押し付けられてきた。

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高校まで大人の言うことを素直に聞く操り人形のようだった私が、ナチュラルにはびこる男尊女卑に嫌気が差したのは大学に入学してすぐだった。

「女だから留学には行かなくていい」突然祖父母に言われた言葉に、滅多に怒りの感情の湧かない私の心に火がついてしまった。本当は受験期も祖父は短大で良いと主張したそうだが、そのときは祖母がかばってくれたらしい。おかげで負けず嫌いに火がつき、一年生なのに長期のインターンシップに参加し、それがガクチカになったことと、お金の面だけ祖父母に感謝している。

高校か専門学校か短大を卒業して、結婚、私の地元はそれが幸せのレールで、乗れなかった人間は排除。祖父母の過干渉は当時通院していた心療内科の主治医も危惧をしていて、ストレスで心に爆弾を抱えていた私は一人暮らしを始めた。

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一人暮らしではいろんな新しいことができた。マッチングアプリでたくさんの人と性的な関係を持ったり、朝まで飲んだり、夜の街を友人とあてもなく歩いたり。

そこでも、どうして好きでもない男性と初めてをしたのかと半分泣き顔で、半分怒り顔で責められたことがある。私は浮気をなんとも思わない独占欲の湧かないセクシュアリティで、それが男性との関係を拗らせてしんどいから、純粋にセックスが好きだから、と今なら答えられるのだが。避妊をしていれば正直誰とでもセックスしたいなんて当時は言えなかったし。女の子なんだから体を大事にしなよと純度100%の善意で言われて、20歳になったばかりの私はうまくかわせなかった。

就職活動は東京本社に絞った。最近内定が出た会社の最終面接は、田舎の男尊女卑あるあるで盛り上がった。

人事の責任者のAさんから、あなたは若いときの私みたいと言われた。田舎の価値観に違和感を抱いていて、結婚=幸せをうまく飲み込めないあたりが。上京してからずっと東京で生きてきて、結婚も選ばなかった、出世は同期の男性の何倍も早かった。東京はきっとあなたに合っているし、うちの会社はITの知識に精通している人より、あなたのような古い価値観を疑って納得するまで行動できたり、思いやりを持てる人の方が欲しいと言われた。

あなたの東京での活躍を見たいと言われたとき、私の後ろには過去のAさんが見えていたんだと思う。

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就活中は古い価値観と、大学受験に失敗した自分と、戦っているんだと自分を鼓舞していた。だけど、頑張る度に大人が応援してくれて、女性が自分らしく働く難しさを、私以上に知っていて、過去の自分を励ますように私の味方になってくれる人がいた。

自分と戦い続けるだけには人生はあまりにも長すぎる。私もいつかあのときの私に重ねて誰かを思う日が来るのだろうと思う。

正直まだ私の中には、男性を見返したいという気持ちが燃えたぎっているし、簡単に色メガネを外すことはできないんだと思う。
いつか色メガネを外して空気を吸えたら、冒頭の言葉に女だ男だ、ではなくて、浮気の香りがぷんぷんしたお前に向き合う気が失せて、でかい主語で話しただけだよと言えるかもしれない。浮気なんて女友達もえげつないやつ、していたし。

だけどやっぱり男って浮気するやつ、多いよね?
この私の主語のでかさが、地元を飛び出してどう変わるか少しだけ楽しみだ。