いつも熱を帯びていた香港。私はその中にいた、彼女と手を繋ぎながら

ビクトリア・ハーバーが煌めく街、看板がせり出す細い路地、屋台の鉄板がじゅうと鳴る音。甘いミルクティーとスパイスの香りが混ざり合い、香港はいつも熱を帯びていた。私はその中にいた。彼女と手をつなぎながら。
放課後の遊び場はマンションの中庭だった。制服のスカートを揺らし駆け回って、汗だくになったら甘いお茶を買って。氷の粒がカラカラと音を立てるたび、「もう離れられないね」と笑い合った。
でも、本当は知っていた。転勤が決まれば、私はまたどこかへ行かなければならない。
曇り空の下、空港へと足を進める。SNSもまだ普及していなかったあの頃、それは今生の別れを意味していた。ぼんやりと歩いていた私に、彼女は翡翠のペンダントを握らせた。「翡翠は持ち主を守るんだって。だから、どこにいても大丈夫」
そっと握る。ひんやりとした石の感触が、あの湿った夜風を思い出させる。
いつかまた、ネオンが滲む街で彼女とすれ違う日が来るだろうか。幼い頃感じた空気が、時折夢の中でよみがえる。どこからか賑やかな笑い声が聞こえ、屋台の香りがふわりと流れてくる。街の活気と温かみを肌で感じながら、私はその一部になっていた。
香港は、まさにその街に暮らす人々と共に呼吸する場所だった。
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