受験の時期は、誰もが何かに依存し、それをよすがに生活している。
私もみんなと同じようにまたミルクティーを偏愛していた。
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私がミルクティーに出会ったきっかけは正直全く覚えていない。大学受験を控え予備校に通っていた時、ふと勉強に疲れて、何かを飲もうと思いたった。
お小遣いも少なく、お金がわずかしか入っていない財布からなけなしの小銭を取り出し、自販機で購入したのが、たまたまミルクティーだった。なんだか甘いものが飲みたくなったのだと思う。
蓋を開けて一口飲む。不思議な甘さが舌いっぱいに広がった。ペットボトルに入った甘く独特で唯一無二の味がするミルクティー。市販の茶葉から抽出した紅茶にミルクを加えて作るものとはまるで違う。自分ではけして作り出すことのできない味だ。
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一口飲んだあの時、私は完全にミルクティーに恋に落ちた。それくらいの衝撃を受けた。俄然勉強のやる気が湧いてきた私は、帰ることなく予備校に居残った。その日の勉強はかなり捗ったと記憶している。
それから予備校にある自販機に通い詰めるようになり、毎日のようにミルクティーを飲んだ。ミルクティーを飲むと、より頑張ろうと思える。研究者になる夢を叶えるために、今は勉強をしようと再確認させられる。
たまに違う種類のミルクティーを購入したり、自ら作ったミルクティーを予備校に持って行ったこともあった。でもやはり何かが違う。あれほどのやる気はでない。あのミルクティーでなければならないのだ。
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私はよく予備校の友人たちと夢を語り合っていた。
私は周りの人たちにミルクティーの良さについて語った。あの甘さが良い。もう帰ろうかなっていう時にもう少し勉強してから帰ろうって思う。カロリーも思ったより低い。
そうこうしているうちに、私の周りの人たちもみんなミルクティーを飲み始めた。ミルクティーに助けられ、受験は無事合格という成功で終わった。周りの友人たちも合格し、皆夢を追って大学へと進学していった。
大学に入ると、今までが嘘のように私のミルクティー愛も終わりを告げたようだった。もはやミルクティーを飲んでいないことさえすっかり忘れているくらいに、全く飲まなくなっていた。
大学生活の毎日が楽し過ぎてそれどころではなかったのだろう。何かに頼って生きる必要もなかったのかもしれない。
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大学四年生になり、研究室に配属された。研究室はこれまでとは比べ物にならないくらいの忙しさだった。実験をしたり、論文を読んだり、常にやることがあり、知らず知らずのうちに、心身ともに疲弊していた。ふと疲れて家に帰ろうかなと思った時、自販機にある、”あの”ミルクティーが目に入った。
ああそうだったな。大学受験の時は、今の研究がしたくて、あれだけ頑張ったんだ。
アルバイトで当時より少しだけお金の増えた財布から小銭を出し、私はミルクティーを買った。蓋を開けて一口飲む。あの時の甘さがふと蘇る。勉強の辛さや当時の友人たち、夢を語り合った日々を思い出す。
もう少し頑張ろう。その日、私は学校に居残った。研究はいつも以上に捗った。
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そのエピソードを、あのミルクティーの製造会社に伝えたことがある。ご丁寧に感謝の意を示したご返答までいただいた。やはりあの時出会えてよかったな、と再確認したものである。返答からも誰かに愛されて製造され、誰かに愛され続けて商品として残っていることがよくわかった。
社会人になった今も、変わらず自販機に売られているあのミルクティーを見るたびに当時のことを思い出す。たまに買っては飲んで、あの時の甘さを何度も噛み締めるように思い出している。ミルクティーを飲んだ日は、仕事が捗る。