「○○をブロックしますか?」

一度ためらってからブロックを選ぶ。

昨年の春、彼女からの出産報告を受けた日。私は高校からの友人をブロックした。

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彼女とは高校の部活が一緒だった。頭の回転が速くて、歯に衣着せぬ発言が聞いていて気持ちよかった。

同じ専門学校に進学した後は、お互いあまりクラスに馴染めなかったため愚痴を言ったりご飯に行ったりした。もう一人同じ高校出身の同級生がいたため、3人でしょっちゅう遊んでいた。私が専門学校を中退せずに卒業できたのは、彼女たちのおかげと言っても過言じゃない。

就職してからも大切な友人であることには変わらなかった。私がコロナ禍で結婚式を挙げると伝えた時も、中には嫌味を言ったり縁を切られたりした友人がいる中で、彼女は「コロナになってもはるちゃんの式のせいじゃない」と擁護してくれた。

本当に大切な友人思っていた。ただ会うたびに少しだけ、嫌だと思う瞬間があったことも事実だ。

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おかしくなり始めたのは彼女に彼氏ができてから。

「私の彼氏○○大学院卒だよ~?」
「月の手取り○万だよ~?」
「本当困る~」

また始まった。就職して半年ほどたってから、彼女は頻繁に彼氏の自慢話をするようになった。毎回話される自慢なのかマウントなのかわからない話題。最初は「浮かれてるな~」と楽しく聞いていたが、内心うんざりすることが増えた。

私が結婚式後にすぐ夫の転勤に帯同したため、少し距離ができたのが良かったと思うほど会うたびにイラっとすることが増えていた。

「月いくらくらい稼いでるの?」
「10万くらいかな~」
「低っっっ!!!」
「は?」

転勤先にも慣れてきた頃、久しぶりに地元へ帰り3人で会った時だった。当時私は不妊治療をしており、休みがとりやすいように正社員ではなくパートで仕事をしていた。

そのことは彼女にも伝えていた。転勤したことも、先が見えない未来について悩んでいることも話していた。

彼女自身も子供ができないと言っていた。それでも。

「私はめっちゃ残業してるから残業代だけで100万くらい稼いでる」

フィクションと思われるかもしれない。だが、本当に彼女はそう言った。

「はるちゃんの旦那はいくら稼いでんの?」

心の中で何かが爆ぜた。この人はお金でマウントを取ることしか頭にない。

そう思ってしまった。

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その後私は無事妊娠し、大切な娘と出会えた。

娘のためにまっとうな母親であろうと、親のせいで娘が嫌な思いをしないようにと。毎日悩みながらも必死に子育てをしている。


LINE通知の音がする。

「無事男の子が生まれたよ~!」

彼女からの出産報告だった。

おめでとう!

本当にそう思ってトーク画面を開いたそこには。新生児の写真よりも、まず先に某有名高級チョコレートの写真。
そのチョコレートの写真が何を意味していたのかは分からないし、もしかしたらご送信だったのかもしれないが。

抜かりないな。

思わず笑ってしまってから

「お疲れ~。子育て頑張って」

おめでとうは言えなかった。

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私は心が弱い。だからいまだに彼女のことを心配してしまうこともあるし、写真を見返して「この頃みたいに遊べたら」と寂しくなることもある。

あの後しばらくしてからLINEのブロックは解除したが、彼女が私に連絡をくれたこともないし、きっと私から連絡することもないだろう。

ありがたいことに社宅ではママ友がたくさんできたが、話していてもマウントを取られたと感じたことはない。

本当にいい友人だった。

伝えなかったけど、今までありがとう。
お互いに、良い親になれればと願っている。