「こういう利用価値も存在価値もない人間は死ねばいいのにね」
中学1年生の冬、私はいじめられていた。
いじめグループのリーダーだったアイツと、次のターゲットになった私。
集団で無視、通りすがりの悪口、通学バッグを蹴られたり机に落書きされたり、学生生活は地獄そのものだった。
「アイツさえいなければ……」と、できもしない仕返しを考え、されるかもしれない仕打ちにおびえる毎日。
幸い2・3年生でクラスが離れたため卒業までほぼ関わることもなく、私たちはそれぞれの高校へ進学した。
しかし決して彼女を許したわけではなかったし、辛かった中学生生活が良い思い出に変わることはなかった。
いつか仕返ししてやりたい。
そう思っていた。

◎          ◎

「ねぇ、○○って、はるちゃんと同じ中学だよね?」
高校に入ってできた友達からアイツの名前を聞いた時、一瞬で嫌な思い出が噴き出した。
「受験の時、塾が一緒だったんだけど~」
もし陰で私のありもしない悪口を言っていたら?
それがきっかけで高校でもいじめられたら?
聞きたくない、そう思った時。
「今、パニック障害らしいよ」
「え?」
「友達が離れていくのが怖いって不登校みたいなんだけど、仲良かった?」
「そうなんだ……心配だね」
そう言った私がどんな顔をしていたかはわからない。
ひとつわかるのは、絶対に心配な顔はしていなかっただろう。
人を苦しめたから罰が当たったんだ。
正直に言うと心底嬉しかった。

その後、特に彼女の話になることもなく、私は高校生活を謳歌した。
一度地元の友達と遊んだ時に彼女が高校を退学したと聞いたが、アイツのことなんかどうでもよくなるくらい充実した毎日を送り、アイツのことも中学時代のいじめのことも忘れていった。

◎          ◎

あれから約10年、職場結婚し、主人の転勤で地元を離れた私は一人苦しんでいた。
転勤後に始めたパートがうまくいかず4か月で退職、次を探そうと思った時に妊娠がわかった。
ずっと子供が欲しかったから妊娠は心から嬉しかったが、親も友達もいない転勤先で一人つわりに耐える日々。
ご飯も水も受け付けなくて、次第に主人と話す体力もなくなっていった。

ピコン!
SNSの通知がなる。
「○○さんからフォローされました。」
スマホに表示された名前に思わず戸惑う。
もう関わることもないだろうと思っていたアイツ。
このままブロックすれば少し仕返しになるだろうか、上手くいかなかったパート先やつわりへのイライラも晴れるだろうか。
仕返しがしたい。
そんなことを思いながらプロフィール画面を開き、投稿された写真を眺める。
そこには可愛い女の子と幸せそうに微笑むアイツの笑顔があった。
共感してほしい……。
つわりの苦しみとさみしさから私は大嫌いだったアイツをフォローし返していた。

◎          ◎

仕返しがしたいと思っていたのが噓のように、私たちはダイレクトメッセージでやり取りをした。
お互い妊娠中であること、つわりのこと、私が今住んでいる街のこと……。
中学生の時には考えられなかったが、まるで久しぶりに会った「友達」のように仲良く近況を語り合い、彼女は私の孤独をほぐしてくれた。
しばらくして彼女は第二子となる女の子を無事出産、忙しい育児の合間につわりの具合を気遣ってくれたり、帝王切開について話してくれたりした。

もしあの時、私が中学生の気持ちのままブロックしていたら、貴重なママ友を得る前に失っていただろう。
彼女は一足先に母になり、成長していた。
私も12月には彼女と同じ母親になる。
いじめた側の気持ちといじめられた側の気持ちはイコールではないし、全員が加害者を許す必要もない。
未だに許せないと思う時もある。
それでも次に会う時には、きっといい方へ変わった私でいたいと願っている。