私の旅の目的は、目的地ではなく「移動」だと思う。

今いる場所から、ただ物理的に移動するため。
行き先で、知らない土地と知らない空気を感じながら移動するため。
そして、元の場所に違う気持ちで戻ってくるために、私は、旅に出るのだと思う。

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でも、行きたいときにすぐ行けるとは限らない。むしろ、行きたいときほど行けないことのほうが多い。

たとえば、仕事を終えた平日の夜。家に帰りたくない気持ちになることがある。そのまま、どこかへ旅に出てしまいたくなることがある。

でも、明日も仕事。どこにも行けはしない。

そんなとき、私はちょっとした「旅」をすることにしている。
「気が済むまで電車を降りない旅」 に出るのだ。ただただ、知らない駅まで身体が運ばれていくのを待つだけの、ちょっとした、小さな旅。

乗客が乗り降りしていく。疲れた顔の人、楽しそうに話す人。おじいちゃん、おばあちゃん、学生たち。それぞれが、目的の駅で降りていく。

気づけば、外はさらに暗くなっている。

「そろそろいいかな」と、見知らぬ駅に降り立つと、どこか遠くへ来たような気がする。

心が、少しだけ軽くなる。

「よし、帰ろうかな」そう思えたら、それが私の小さな旅の終わり。

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移動することが、自分を満たしてくれる気がする。
毎日は旅に出られないけれど、これが私の日常の中の、小さな旅。

そして、もっと遠くへ、もっと知らない場所へ行きたくなったとき、家へ帰る電車の中で、「えいや!」と旅の切符を取ったりするのだ。