旅が好きだ。
旅と行っても、飛行機に乗ってハワイに行ったり、新幹線に乗ってディズニーランドに行くようなきらびやかなものではない。
電車に乗る。これこそが私の旅のサビであり、全てなのだ。

スケールの大小は関係なく、全部私の愛すべき電車での旅

片道30分。お気に入りのバッグと新しい靴。ちょっとまだ靴擦れするかもしれないけど。万が一かわいい服に巡り会えた時、いつでも試着できるようにジーンズに脱ぎ着しやすいニットやシャツを合わせる。
一人で街に行く時の私のユニフォーム。よくある週末の、小さな旅。

片道1時間半。合わせやすい服を2組。家族や友達へのお土産とSwitch、厳選された一軍のコスメたち。それらを大きめのトートバッグに入れて家を出る。早く着きたくて、大きな駅での乗り換えを乗り換えアプリよりも多くする。
帰省の時のルーティーン。帰省といっても、1ヶ月おきに実家に帰っているのだけれど。社会人になると同時に一人暮らしを始めた私がちょっとひと呼吸置くための慰安旅行。

片道3時間。いちばんかわいいワンピースと盛れるリップ。仕事で遠くに引っ越した幼なじみとの待ち合わせ。お互い住む場所が変わっても、あの時みたいに待ち合わせてカフェに行く、映画を観る、服を見る。
私たちが歩けば、どんな街も地元の駅前になる。イオンになる。公園になる。大人になってもバイタリティーを燃やし続けるぞ、という決意も込めた定期旅行。
友達へ、たまにはこっちにも来てね(笑)。

片道5時間。青春18きっぷ、カメラ、少し肩の力を抜いた、けれど自分の納得のいくおしゃれをスニーカーでまとめる。
だいたい始発の次の次くらいの時間の電車。知らない駅の駅名表示の文字はなんだか味があるなあ、なんて思いながら何十駅も電車に揺られ続ける。
あしたはきっとお尻が痛い。目的地の地図にある水色にうっとりする。内陸生まれの私の、海への憧れを叶えるための旅行。

スケールの大小は関係ない。全部私の愛すべき旅たち。旅はいつも電車に乗るのだけれど、電車でないといけない。いくつもの駅を通り越していくあの感覚が、たまらないのだ。

行先も行動も自由にできる全能感。その感覚を求めて、また電車に乗る

例えば、帰省する時。今住んでいるところから都会の駅を通り越して実家の最寄り駅を目指すのだけど、「途中で降りるのも私の自由」と感じるのがとてつもなく気持ちいい。
帰省の予定を放り出して都会の駅で降りて遊ぶ自由な私を妄想して、強くなった気持ちになれる。途中で目的を変更できる、する可能性が0ではないあの状態が、全能感をもたらすのだ。

旅の時、持ち物は出来るだけ少ない方が良い。厳選している時間も楽しいし、何より自分が身軽で何処へでも行ける子だと思える。少ない荷物の中には本とかゲームとかの娯楽があってもいいし、なくてもいい。小さなカバンから小説が出てくるのもなかなかイケてると思うし、電車の中で子どもみたいにゲームするのも悪くない。何も持たずに音楽だけ聴いているのも、かっこいい。

持ち物でいちばん大事なのはコスメ。なんやかんやで女の子である事は楽しい。それを確かめるためにコスメを持ち歩く(もちろんどんな性別の人でもコスメを持ち歩く権利はあるけれどそれはまた別の話)。
そしてやっぱりコスメも少ない方が、強くてかっこいい気がする。あと美人になった気にもなる。

私が電車での旅を愛する理由は、全能感を得るため。
旅の目的地よりも、移動を愛していると最近感じる。次の駅で降りてもいいけど降りずに進む。本気だけど余力もある。余裕のない生活をしているけど、その時だけはそう思える。移動している間は何処へでも行ける気がするし、何でもできる気がする。
その感覚を求めて、また電車に乗る。次はどの駅に行こうかな。