中国に留学していた時、そこで出会った香港の学生は私が日本人と知ると熱く話しかけてきた。

「日本人は新聞や本をよく読むと聞く。なのになぜ皆政治に無関心なのか?」

二十歳そこそこの私は彼の真剣な眼差しにたじろぎ、しどろもどろ答えるのがやっとだった。

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大学の休暇を利用し初めて訪れた香港では1人の女性と知り合った。恐縮するほど親切に現地を案内してくれた彼女は帰り際私に1本のテープを手渡した。

「これには私が歌った日本の音楽が入っている。日本に帰ったらテレビ局に届けてほしい」

歌手という夢を一見の私に託した彼女の心意気に絆され、私は帰国したその脚でテレビ局へと向かった。

あれから30年、彼らはどうしているだろうか。

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自分の思いに熱く正直な香港人と触れ合うたび、私の心は大きく揺れ動いた。氷河期世代で第2次ベビーブームに生まれた私は、若い頃どこか冷めた、諦めに似た感覚を持っていたと思う。

彼らの熱さや行動力に感化された私は、中国留学を終えると次に香港を目指した。懸命にバイトし香港留学資金が貯まった頃、母が病に倒れ、それは母の入院費に化けた。結局香港留学は果たせなかったけれど、彼らに焚き付けられた心の火はずっと胸に燻っている。

熱い香港、今も変わらないだろうか。歳を重ねた彼ら、まだ熱いだろうか。青春の忘れ物を探しに、答え合わせをしに、香港の今を訪ねてみたい。