今まで東北地方へ行ったことのなかった私は、春休みに1人で仙台へ旅行へ行こうと思い立った。平日も空いている大学生の身なので、2,  3月でバスが一番安い日に行こうと思い、東京から仙台へのバスを検索した。

すると、私が調べたサイトでは、3月11日が当月最安値になっていた。このとき私は、3月に震災があったことを急に実感し、今まで忘れていたことを恥じるような気持ちになった。

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2025年の3月11日は火曜日で他の曜日と比べても比較的安かったので、3月で最安値になっているのも偶然だったかもしれない。だが、他の週と比べて安くなっているのは、やはりバスの本数自体が多いのかもしれないとも思う。実際のところはわからないが、結局私は、2月最安値の日に仙台へ旅行へ行くことにした。その日には、東北へ行きたい人や行くべき人がきっとたくさんいるだろうと思ったからである。

東日本大震災が起こったとき、私は保育園児だった。愛知県に住んでいたので、おそらく震度は3くらい。当時のことを覚えていると言う友人もいるが、私は地震の揺れもその後の報道も全く覚えておらず、実害もなかった。知り合いが東北にいることもなかったし、他に大きな地震が身の回りで起きたこともなかった。

だから私は今まで、震災について本当の意味では理解も想像もできていなかったのだと思う。バスの値段を調べたときに、なんだかすごく焦ったのだった。

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一人旅では、午前に松島へ行って、午後に仙台を回った。どちらも有名な観光地であるため、すごく整備されていて、また人が生活している場所だった。寒い季節だったが、観光客も多かった。かつて、大きな震災があったことは、やはり想像できない。ただ、注意して見てみると、いたるところに震災の記念碑が立っている。おそらく、海寄りの地域や北の方へ行けば、被害はさらに大きかったと想像される。

可能であれば、震災の被害があった場所や伝承施設にも行ってみたいと思っていた。だが、結局勇気が出なくて行くことができなかった。私のような部外者が、興味本位で来ていいものかわからなかったのである。災害研究をしている大学の先生が「被災者にとっては普段の生活の場であって、そこが特別視されることに違和感を覚える人もいる」と言っていた。

そこで生活をしている人たちの生活に土足で踏み込むようなことはしてはいけないし、震災を彼らと同じように受け止めることはおそらくできない。その一方で、いかに研究成果を残していくのか、いかに今後の防災につなげていくのかが難しいと感じる。

今後世代が変わっていくにつれて、私のような「実感」のない若者がきっと増えていくと思う(それだけ災害がないことは幸運でもあるけれど)。今後の被害を最小限に抑えるためにも、適切な学びの場を確保できたらいいと思う。

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私は大学入学とともに愛知県から上京してきた。ひとつよかったと思うことは交友関係が一気に広まったことだ。東北出身の友人もできたし、石川出身の友人も熊本出身の友人もできた。辛いこともあるけれども、災害について自分ごととして考え、ちゃんと防災に取り組むきっかけは増えたと思う。

今回の仙台旅行についても、震災の傷を直接見るような経験をしたわけではないが、それでも心の中で以前より東北が近くなったことはよかったと思っている。

それから、私の地元の愛知県は、いつか南海トラフ大地震がくる、と昔から言われている。いざというときのために、防災について考え、行動ができるようになりたいと思う。そのためにも、過去の震災の経験をいかに伝えていくべきか、「当事者でない、いつか当事者になるかもしれない」人として考えていきたい。