「何度か海外旅行に行ったけど香港が一番良かったわよ」
以前、職場の先輩女性がそう話していたことを思い出す。

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私は出無精で海外旅行には縁がなかったけれど、夜景が大好きで見知らぬ香港の夜景を想像することがある。

宝石箱をひっくり返したようなにぎやかな色とりどりの夜景。

キンキンに冷えた冬の空気の中に浮かび上がる摩天楼のビル群。
夏の夜空、無数の屋台の灯り、雑踏と喧騒。
いろんな国の言葉が行き交う…。

歴史の変遷の波間にあった香港。
いろいろなものをすべて飲み込んだ流れのなか、やがてきらめく上澄み。
それが香港の夜景だと思う。

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今年62歳になった私もいろんなことを飲み込んで生きてきたと言えよう。
いまだからこそ香港の夜景に会いに行きたい。
件の先輩は「とにかく移動が便利だしご飯もおいしい。」と言っていたけれど
私はホテルにこもって熱いお茶(中国茶?イングリッシュティー?どちらでも構わない)
を飲みながら来し方を思い浮かべて夜中じゅう、光の洪水を眺めていたいと思う。