私の部屋には綺麗なまま保管された香港の旅行用ガイドブックが置いてある。

時は遡り、2019年10月。遅めの夏休みから帰ってきたばかりの私は、仕事帰りに職場近くの書店に立ち寄った。旅行に行くときはいつも紙のガイドブックを用意する派。

ふと、若い頃にイギリスから返還されたばかりの香港を旅した良い思い出を話す母の言葉を思い出し、気付いたら私の焦点は香港のそれらが置かれた本棚に合っていた。そうして気に入った2冊を手に取り、会計を済ませた。

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次にちょっとしたまとまった休みが取れるのは年が明けた後の春頃だろうか。帰宅し、旅行のベストシーズンを紹介するページを見ながらいつ行くのが良いだろうかと考える至福の時を過ごした。

年が明け2020年1月、なんだか耳慣れないウイルスのニュースが世間を騒がせている。あれよあれよという間に未曾有の感染症の嵐に飲み込まれ、すっかり海外に行くことは出来なくなってしまった。
そのまま例のガイドブック達は私の部屋の片隅で忘れ去られてしまった……。

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先日、私は久しぶりの引越をした。部屋の整理をしていると、付箋も付いていなければメモも書き込まれていない、とても綺麗なガイドブック2冊が出てきた。そうだ、だいぶ前に買ったんだった。
5年半振りに本を開くと、とても美味しそうな雲呑麺や、憧れのネイザンロードのネオンの写真が目に飛び込んできて、コロナ前の記憶がフラッシュバックする。

その瞬間、決めた。今年の夏は香港に行くぞ。