「スポーツ観戦が趣味なんですね」
そう聞かれると、はい、と答えてしまう。
でも、それは私の中では30%くらいしか納得できていない。
面倒だからそれ以上言わないことが多いけど。

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私がスポーツと接点を持ったのは、地元で世界陸上が開催された時。
それまでは、体育の授業も嫌いだった。
兄がテレビでサッカーの日本代表戦を点けたら、喧嘩してしまうくらい見たくなかった。
世界陸上は少し違った。
近くのホテルで食事をすれば、そのホテルのエレベーターで選手と会ったり、家の前で観戦後の熱気を帯びた集団とすれ違ったり、世界は本当にすぐそこに在った。
海外旅行にも行ったことがない当時の私には、新鮮そのものだ。
おまけに学校に行けば、私と同じく体育苦手組までもが、ウサイン・ボルトの話をしている。
たった10数年の人生だったが、こんなにも共通の話題でみんなが盛り上がることはなかったと感動した。

ただ、世界陸上の波は一瞬で過ぎ去り、嫌いな体育の授業の時間を前にして、サボりたいと思う日々が再開した。
「来月も世界陸上ないかなぁ。ずっとやってたらいいのに」
そんなふうに思っても意味がないのはわかっている。
呆れた兄は、
「サッカーなら、Jリーグなら毎週やってる」
と、私をJリーグの試合に連れ出してくれた。
初めて見た試合は、まさに世界陸上が行われたスタジアムでのダービーマッチだった。
兄が応援したチームが善戦して、とても盛り上がっていたのを覚えている。

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ゴールが決まると、横に座っている知らないカップルも、前に座っている家族連れもみんな立ち上がって笑っている。
その瞬間、普段は何も接点がない人たちもみんな同じものを見て、同じ感情を注ぐ。
人生が交差する瞬間。不思議な感覚だった。
「ここは小さな世界陸上だ」と思った。

その小さな世界陸上は、瞬く間に私の心を鷲掴み、頻繁に試合を観に行くようになっていく。
さらにサッカーに飽き足らず、バスケやバレー、もちろんオリンピックも真剣に観るようになった。
そして、気づけば私は、スポーツを仕事にしたいと思うようになっていた。

「やっぱり、スポーツ観戦が趣味なんだ」
そう思われるかもしれないが、少し違う。
私がここまでスポーツを観るようになったのは、「スポーツを観ている人を見るのが好きだから」。
そこにいる全ての人が同じものを見て、感情を共有する瞬間は何度見ても私の心を揺さぶった。
だから、私もこんな瞬間を作れる人になりたいと思ったのだ。

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スポーツの裏方として仕事をしたいと考えてから、SNSや Webでひたすらにスポーツチームのインターンや求人を探した。
その中に、私をJリーグファンにしてくれたチームの求人があった。
当時、卒業間近の大学四年生だったが、運良く採用された。
夢が叶ったと思った。
だが、そこで知ったのはスポーツ業界の厳しい現実だった。
労働時間が長いこと。
それに対して給与が低いこと。
体力仕事が多く、男性社会であること。
私が大人になってからもずっと続けられるか、自信のないことばかりが起こっていた。

卒業後、私はスポーツとは全く関係のない仕事に就いた。
学び多き環境であったが、何かが物足りなかった。
もう一度スポーツ業界の門戸を叩いてみようと、転職活動をしたこともあった。
そこでは、「女性なのに長く働く気があるんですか?」と面接で聞かれる始末だった。
その後も私のスポーツ業界への想いはふらふらと宙を彷徨う。
結局、転職はしたが、スポーツの関係ない世界だ。
働きやすい環境でもないし、大学時代に一度大好きなチームでスポーツの仕事に携われたのだから、もう十分じゃないか。
そう心に言い聞かせた。
でも、まだこうやってこんなテーマのエッセイに応募したりしている。
私はまだスポーツが好きですか?