初めてひとり旅をした。

心身ともに疲弊した私は、限界を悟って数日間無理に休みを取って直感で島根に行くことに決めた。
気の赴くままに街を歩き、店に入り、景色を眺めた。自分の行き先を自由に決められることが楽しかった。

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翌日、ふと思いついて松江城に向かった。そこで見知らぬおばちゃんの写真を撮ってあげたことをきっかけに、少し話しながら一緒に歩いた。
「ひとりできたの?わざわざここまで?」
あれこれ聞かれるかと身構えた。ひとりで平日に松江城にいる若い女は私しかいなかった。

でもおばちゃんはにっこり笑って、「生きてりゃいろいろあるよね。私も若いときは何度もひとりで旅に出たいと思ったよ。でも、大丈夫よ」と言った。

私の事情なんて知らない初対面のおばちゃんの「大丈夫」は、今まで言われた「大丈夫」のなかで一番「大丈夫」だと思わせてくれた。

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帰りのバスの車窓から流れゆく景色を眺めながら考えた。
よく、人生は旅に例えられる。
それなら旅のようにもっと自由に自分の行き先を選択してもよいのではないか。
いろんなものを見て、感じて、時には失敗して、そのことを忘れないでいる。同じ道につまづいた誰かに「大丈夫」と言ってあげられる。
帰りのバスは、日常へ戻るトンネルに吸い込まれていった。