日が昇り残酷な世界に放り投げられるのが怖い。だから、ずっと夜であれ

夜、一人になると不安や焦燥感が波になって押し寄せる。気づけば頭の中はいっぱいで、涙が止まらなくなる。夜は静かで、冷たくて。そして私を一人にする。
怖くなって、いっそのことその闇に飛び込んでしまいたいと思う。
夜中に家を飛び出した。部屋にいたら、消えてしまう気がした。裸足だったから、コンクリートが冷たかった。行く場所もなくて、ただ誰もいない世界を歩いていた。歩き疲れて、ふと涙も乾いたことに気づく。足の裏がジンジンと痛んで、裸足で外に出たことを後悔した。家に帰ると、足を洗って自室に戻る。疲れた私はベッドに沈み込み、今度こそ眠りにつく。そんな夜を何度過ごしただろう。
五月。夜を生活する人となった。ダーツバーで働くこととなったのだ。寝れない夜は、仕事をする夜に変わった。孤独だと思っていた夜にも、人は沢山いた。その人達はすごく優しかった。自分が嫌悪していた夜にこんなものが隠れていたのか、と思うほどに。やつれ切った心を回復させてくれたのはここのダーツバーだった。
そして、はたと気づいたのである。夜が怖かったのではない。ただ、世界が怖かったのだ。
誰かと一緒にいれば、私という仮面を被り演じることが出来た。それでも、一人暗闇に閉じこもると蓋をしていた感情が怒涛のように溢れ出す。誰にも言えない。だって皆正しく生きてるんだもの。こんなに生きるのが下手なのは、私しかいないんじゃない?それでも置いて行かれるのは嫌だから、必死についていくの。でも時々怖くなる。これからどうしようって。皆どんどん私のこと置いていくんでしょう?幸せになっていくんでしょう?そんなの嫌だよ。でももう私頑張れないの。歩けないの。でも時間だって私のこと待ってくれない。
だってほら、そんなことを考えてるうちに外が明るくなってきたでしょう。そしたら私はまた皆と同じように見られるように頑張るの。夜が嫌いなんじゃない。日が昇ればまた残酷な世界に放り投げられることが怖いのだ。ずっとここに居たいと思う。だから考える。どうやったらここにとどまれるのだろう。目の前の暗闇は手を大きく広げるんだ。こっちにおいでって。
でも分かる。そっちに行ったらダメなんだ。私が全部消えてしまうから。そうなったら終わり。楽しいことも出来なくなっちゃう。大好きなあの人にも、会えなくなっちゃう。ああ。いやだいやだ。そうして細い糸でつなぎとめられるの。私は時間を無駄にしている。むさぼり食っている。素手で。背中を丸めて。でもそれって少しだけ悪い事な気がする。もっと、頑張らなきゃいけない時間だと思うから。
生きるのって大変だ。どうやって息抜きするかなんて、誰も教えてくれなかった。だから全力疾走してここまで来たんだ。そしたら疲れちゃった。疲れちゃったのに、止まり方が分からない。止まろうとすると、ダメだよって言われてる気がする。君は頑張ることしか出来ないからね。頑張らないと価値無いからね。ほら走って。そんな風に。
憎いなあ。私よりも上手く生きている人を見るとイライラする。人に甘えを通り越して迷惑をかけながらでも、平気な顔してのうのうと幸せそうに生きてる人。後ろから蹴っ飛ばしたくなる。そんなことを思う自分が嫌いだ。なんかもう、そんな世界には行きたくないからさ、世界よ。ずっと夜であれ。
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