「なんて答えて欲しいんだろう」探ってしまう私は己の意思がわからない

1年半付き合った彼氏と、相手の浮気が理由で別れた。
浮気されたのは2回目で、その時も彼を完全に信用してはいなかったものの、半同棲生活が続いていた分少し安心もあった。
しかし、ある時仕事から帰宅して一緒に過ごしている時、彼がPayPayを見ているのを発見した。PayPayを家で開くことなんて滅多にない。浮気相手のLINEはブロックしたと聞いていた。だが時々、浮気相手からPayPayでメッセージが来ると言っていた。そう言ってくるだけ何か隠すようなことはないのだろうと思っていたが、その時ばかりは怪しいと直感的に思った。
とはいえ、勘違いで責めるのは良くないと思った私は、彼が別のことをしている間にこっそりPayPayのメッセージを確認させてもらった。そうしたら案の定、「黒」だった。
彼の浮気が発覚した翌日の朝、持てるだけの荷物を持って始発に近い電車で自宅に帰った。「今の家の契約期限が来たら同棲しよう」なんて言われていたけど、期待して解約していなかったことが救いだった。自分でもいつかこんな日が来るとわかっていたんだなと思った。ただ決定的なきっかけがなかっただけで。
彼と別れてからも、どうしたらちゃんとした恋愛関係になれたのか知りたくて、恋愛本を何冊か読んだ。どの本にも、「追われる女になれ。自分の魅力を自分が一番理解していて、これがしたい、これがほしいをちゃんと言える、自分を持っている人こそ、男性が追いたくなる女性像だ」と書かれていた。
思い返してみると、私は全く真逆だった。夕飯のメニューも旅行先も、いつも彼に決めてもらっていた。特にこだわりがなかったし、彼のしたいようにしたらいいと思っていた。彼の望んでいるものを叶えてあげられるのが良い女だとさえ思っていた。何より、自分で決めるのが面倒だったのかもしれない。
今落ち着いて彼の立場になって考えてみると、彼も面倒くさかったんだろうなと思う。大体自分に合わせてくれるから、最初は気が合って心地がいいと感じても、時間が経つにつれ、私が何を望んでいるのかわからないから何を与えることもできないし、いつも自分の思う通りになるからおもしろくもない。そりゃ、軽く思われて当然だった。
そのことに気づいてから、「自律」が私のテーマになった。他者への依存から卒業して自分の意思で選んで決めて行動すること。
28歳になった今、いまだに自分は自分の面倒を見れていないと思うとがっかりもするが、少しでも早く気づくことができてよかった。
ただ、どうしてこんなにも自分の意思が自分でわからないのだろう?昔から「自由に選んでいいよ」「あなたは何がしたいの?」といった類の問いかけに答えるのが苦手だった。その要因を探っていたら、幼い頃のある記憶を思い出した。
それは小学校2年生の時のこと。当時仲良くしていた友達の家に遊びに行ったら、その子の親に送ってもらうついでに買い物に付き合うことになり、友達とお揃いの筆箱を買ってもらった。別に欲しくもなかったし、おねだりした記憶もない。ただ、友達の親からしたら、私の目の前で友達だけが欲しいものを買ってもらうのはかわいそうだと気を遣ってくれたのだと思う。
家に帰ってから母に友達の親に筆箱を買ってもらったことを報告した。そうしたら母に、「なんでAちゃんちに買ってもらったの?Aちゃんちの子になる?」とすごい剣幕で叱られた。
最近まで忘れていたが、当時7歳の子供からしてみたら、家から追い出されるということはものすごい恐怖だったと思う。自分が何かとんでもなく悪いことをしたんだろうが、それが何かわからずにただただ謝ることしかできなかった。今思えば、はっきり断れなかった自分も悪いが、母の歪んだ解釈で癇に障っただけだろうと思う。でも、その出来事があって以来、私は自分の意思を問われた時に、まずは「お母さんはなんて答えて欲しいんだろう」と考えるようになった。
社会人になって母と直接関わる時間が減ると、自分の意見を求められた時に問いかける相手は自分ではなく、目の前の相手になった。自分の今後の進路を決めるような大きな決め事は、その時一番長く時間を共有している彼氏に頼るようになった。そんなことをしていたら、自分の本音がわからなくなっていた。
28年間。あまりに長い時間自分探しに時間を費やしすぎた気もする。でも、どうしてもそのまま受け流すことができない壁に当たることもあるし、これからも人生は続いていく。
ずっとしまい込んできた自分の感情の存在に気づき始めてからというもの、環境を変えてみたり、普段付き合う人を変えてみたり、もがいている。まだどれもしっくりこなくて失敗続きだが、試しているうちに本来の自分の価値観と一致する何かが見つかると信じている。
母への依存から卒業して、自分らしく生きるために。
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