朝になると、私は兵士になる。高校という名の戦場に行く、高校生という兵士。
毎日命懸けで出兵していた。行きたくない、行きたくない、行きたくない。けれど、行かなければいけない。行かないという選択肢がない。

学校が終わると、今日も生きのびた、明日がある、と思う。明日が来ればまた、戦場に行かなければならない。

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続けている習い事もなく、部活にも所属せず、特技もない。気軽に話せる友達もいない。それにくらべ、弓道に熱心に取り組む次女。頻繁に遊びに行く三女、四女。その妹たちに対してすら劣等感を抱いた。

そんな私の手元に残ったのが勉強だった。私の存在価値を示せるのは、両親に認めてもらうには、勉強しかないと思った。

しかし、私は勉強が大嫌いだった。学校では毎日知らないこと、わからないこと、覚えなければいけないことが湧き出るように現れる。あれも大事これも大事。あれもやらなくては、これもやらなくては。理解しなければ次に進めない。学校に行くたびにどんどん負債が積みあがって、先が見えなくなる。
定期テストの点数、模試の合格判定、成績表の数字。それらが私の存在価値を示すものになった。とりわけ数字は私を叱責した。

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「こんなケアレスミスをするなんて、バカだ」「ここも理解が不十分だ。もっとしっかり勉強しろ」「こんな問題が解けないのに、大学受験は大丈夫なのか」

完璧にしなければ、満点でなければいけない。お前は凡人なのだから、周りの何倍も努力しなければいけない。努力しても結果が出なければ意味がない。
親が汗水たらしたお金で学んでいるのだから、手を抜いてはいけない。 

勉強は義務、私の義務。自分の命を懸けて果たさなければいけない義務。つまり、勉強を放棄するのは、命を手放すことと同義になった。
意味が分からないし、むちゃくちゃな考えを持っていた。もう少し手を抜いてもいい、十分頑張っている。何度も耳にしたけれど、受け入れられなかった。

家と学校を往復し、休日遊びに行くこともない私には、それ以外の生き方がわからないし、認められなかった。そんな生き方をしたくないと思っているくせに、それまでの苦労を手放すほうがもっとずっと恐ろしかった。心がボロボロになって、身体が壊れかけても、必死にしがみついた。ただひたすら自分を追い込むことでしか、生きていてもよいと思えなかった。

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何度も泣きながら保健室に駆け込んだ。授業中に涙が出てくることもしょっちゅうあった。自分が何のためにそこにいるのか、何でこんなことをしているのか分からない。何とかしたいけど動けない、手放せない。考えると死にたくなる。だから、何も考えない。自我を放棄して、授業という任務に耐える。

アラームで起きて、動きづらい重たい軍服を着て、時計に監視されながら準備をして、半泣きで家を出る。肩に食い込むほど重たいリュック、息苦しい満員電車、力の入らない脚に鞭打って自転車をこいだ。電車から眺める朝焼けは、憎たらしいほど優しく街を包んでいた。
生きているから朝が来る。朝が来たら出兵。追ってくる。逃げられない。
朝なんて来なければいいのに。朝が嫌いだった。