ワーキングホリデー中、シェアハウスに住んでいた。

日本人が半分と残りは他国出身の若者とで暮らしていた。その中で1番腹を割ってお互いの話を出来たのは、イギリス在住歴の長い女の子だった。彼女には婚約者が居て、結婚式の準備も着々と進めていた。私も数回、彼女の婚約者と話をしたが、好青年である。英語力が乏しい私にも、英語や日本語を混じえ、写真を見せてくれた。

すんなりと2人の会話にも入れてくれて、イギリスのオススメの紅茶を作ってくれた。たった数日のシェアハウス生活の入退去日には、住人全員分のお菓子を買ってくれた。思いやり溢れる優しい人だ。仲が良くて心も綺麗な2人をとても応援したくなる。だが、2人は理由があって現在は離れ離れになっている。

元々日本が好きな婚約者が日本にある企業を受けて見事合格したのだ。とても喜ばしいことだが、2人にとっては思いがけないタイミングだった。彼女の予想に反して、遥かに早かった彼の日本行きは、彼女のイギリスでの新しい仕事が始まるタイミングとマッチしなかった。

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結局、先に彼は単身渡日し、彼女はイギリスに残り、1年間はお金と職に対する知識や経験を得る期間に充てることとなった。なんとなくのいきさつは知っていたものの、勇気を出して彼女に真実を聞いた際には、とても切ない気持ちになった。

彼が家を出てイギリスを出発する日、私は少しの時間家にいた。彼らが荷造りをして家を出た音を聞いた時、胸がつーんとした。次に彼女とゆっくりリビングで話す機会を得た時、私は思わず聞いてしまった。

「なんで、あなたたちは、離れ離れにならなければいけないの?離れるべきではないあなたたちが、どうしてこんな辛い選択をするの?彼が家を出発する時のドアの開閉の音を聞くのが辛かった。彼を空港まで見送りに行くあなたの心情を思うと切なすぎた。あなたが号泣しながら帰宅する想像も容易く出来た。当事者じゃない私が今、こんなに涙が出るのは何でなのかも分からないの」言葉を発する内に、1番辛いはずの彼女の前で号泣し始めた自身が情けない。

彼女は私を慰め、ゆっくりと上述した理由を話してくれた。一旦自分達の部屋に戻り、改めて泣いてしまったことの謝罪と、包み隠さずに話してくれたことに対する感謝の意をメッセージに込めた。すぐに返信があった。「涙してくれる位、私達のことを思っていてくれていることを知れて、嬉しかったよ。あなたのような友達を持つことが出来て良かったよ、ありがとう」との内容だった。心が温かくなった。

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私は彼女より一足先に帰国した。帰国前、彼女は隣の部屋で壁が薄く、毎日の電話のやり取りが自然と耳に入ることがあった。聞き耳を立てることまではしなかったので細かい内容までは知らない。

だが、今もなお同棲しているかのように、隣にいるかのように、日々の出来事を共有して幸せな時間を過ごしているのは壁越しでも明らかだった。もしかしたら、会いたい、寂しい、とかの類のセリフを使っていたのかもしれない。だが、しんみりした声のトーンは一度も耳にしなかった。¥

私の早期帰国する上での心残りは、彼らの結婚式や彼女が渡日するまでの期間、彼女のそばに居て、時には一喜一憂し、支え合えないことだ。しかし彼女は「結婚式の写真は送るし、私が日本に住み始めたら日本で必ず会えるよ。だから大丈夫」と前向きな言葉を掛けてくれた。

彼女は、精神的にとても強く、人に対してとても優しい。在英中、私にとって彼女の存在はとても心強かった。尊敬の眼差しで見ていた。お世話になり、大事な存在だからこそ、私は彼女の幸せを心から願っている。彼女が無事にイギリスで結婚式を挙げ、日本で彼の隣で二人三脚で幸せ溢れる毎日を過ごしてほしい。これからは彼女が強くいなくて良い、安らかで希望に満ちた日々であってほしい。