「一緒にオールしてみない?」

中学の半ば頃だったろうか。当時書いていた小説を初めて読んでもらって、「あなたの一番目のファンだからね!」と言ってくれた友人にそう提案した。

なんだか当時の私たちにとってオールいうのは憧れで、かっこいいものだった。「昨日オールした!」いうのは一定の間ステータスになった。そういう立場も魅力はあったが、どちらかというと夜通し起きて朝を見る、朝の瞬間を見る。そういうのをやってみたかった。まだまだ健康的で、午後十時くらいには寝て、午前六時ぐらいには起きていたからそう見えていたんだと思う。

◎          ◎

当時は寮生活で、他人の部屋に泊まることは禁止されてたけど内緒で集まろうと約束した。計画から決行まではすぐだった。

「じゃあ、今日の夜にね!何か起きれるもの持ってきてね!」

もうわくわくだった。はじめてのオール!8時間くらい、何をしていよう。あれもやりたい、これもいい。遠足の前日のような、すごくすごく楽しみで夜までが長かった。

夜になって、お菓子や飲み物や読みたかった本とかマンガ、それぞれたくさん持ち寄って、私の部屋のベッドの上で二人だけのパーティーが開幕した。

「続き書いてみたけど、読む?」

友人が自作小説を読んでくれてる間、私は友人から借りた漫画を読んだ。まだスマホは持ってなくて、話すか読むか。あの時間はすごく楽しかった。

私の小説のこれからや、好きな人の話、好きなアニメの話、他愛もない話、もう年相応に話してすごくすごく盛り上がった。

◎          ◎

静かに、静かに、ほんのちょっとずつ時間が過ぎていく。夜は割と長いようで簡単には朝にならなかった。だけどみんなが寝静まった寮の中で、私たちだけが煌々と、森の中でのキャンプをしているようだった。大きな木々に囲まれた中で、テントのそばで焚き火の音を聞きながら朝を待つ。月明かりが何処からか。少し薄暗いくらい。なんだか高揚する。

「ああ」

しゃがれた声だ。
煌々とした灯りもそのままで、静かな朝だ。私たちは午前三時を過ぎた頃限界を迎えて、一緒に夢に引き摺り込まれてしまった。
悔しい。

「またやろ」
「ぜったい」

誰かとの夜はすごく楽しかった。どうやら目的はオールをする事自体には向いていなかったようで、満足したようだった。

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だから「また」は来なかったけれど、今の私は夜に生きている。朝が来るまでの時間を過ごすのはお手の物になった。だけどあんなに長かった夜はすぐ終わってしまうようになった。
ずっと夜がいいのに、カラスが鳴く、自転車の音がする、みんなが家を出て今日も頑張りにいく。

朝を迎えられたのに悲しくなって、また今日も夜を生きるために、昼をやり過ごすかって、出られない部屋で一応決意する。

あの時起きていられなかった夜はすごくすごく魅力的なものだった。大都会の喧騒は無く、真っ暗で、だけどほつほつと灯る街灯が温かさもくれる。都会でも星も瞬いているのがちゃんと見える。

はじめてのオールは失敗だったけれど、あれは私を夜の時間に誘うきっかけだった。

友人とは疎遠になってしまったけど、また書いたモノたちを読んでもらいたい。できるなら「また」をしたい。

あの計画は夜を生きる、今を生きる私を作ってくれた。
ああ書いているうちに今日の朝が来た。