夜更かし。なんと魅力的な言葉なのだろうか。
夜通し、徹夜、オール、などなど……。

夜おそくまで、寝ないで起きておくことを表す言葉は、いくつかある。夜更かしも、これらと同じような意味を持っているだろう。それぞれ同じような状況で使うことができ、言い換えも可能である。

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勉強や仕事など、急いでやらなければならないタスクがある時、ついつい夜遅くまでお酒を飲んだ時など、特に徹夜やオールの理由には、どこかバタバタとせわしない感情がくっついているように思う。しかし、夜更かしという言葉には、なぜだかゆらゆらと穏やかな気持ちがまとっているように感じてしまうのである(完全に個人の感想ですが……)。

そんな巧みな言葉のトリックにまんまと引っ掛かり、私は夜更かしと聞くと、途端に心惹かれてしまう。

そんなこんなで、夜更かしに憧れを抱いている私は特に理由もなく、けれどなんだか起きていたい日に「よし、今日は夜更かしをするぞー」と気合いを入れる。気合いを入れるのは、せっかくの夜更かしを夜更かしらしく過ごしたいからだ。

こういうのは、まずは雰囲気作りから、である。枕の隣にマンガを積んでみたり、部屋を暗くして気になっていた映画を観てみたり、感情の赴くままに、つらつらと言葉をつなげてみたり。夜更かし慣れしていない私には、せいぜいこれくらいしか夜の過ごし方が思い浮かばない。

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しかし、不思議なものである。マンガや映画の登場人物が放つ、ささいな一言にぐっときて、すらすら動くボールペンに身を任せながら、私はみるみるうちに夜更かしのトリコになっていく。大した理由はなかったはずなのに、こうしなければならない理由があったのではないかという気持ちになっていく。夜更かしをしたいという気持ちだけで迎えた夜が、私の心の中にあった整理しきれない様々な感情に気づかせてくれる。もはや、この世界に私しか存在していないのではないかと思うぐらいに、ぽつーんとしたところで自分と向き合っているような、そんな気分になる。

夜がもたらす暗闇と静けさを味方につけて、感情の海にひたる一方で、やはりどこか、ちょっぴり悪さをしているような気にもなってしまう。一人暮らしをしているから、お母さんに「いつまで起きてんの!はやく寝なさいよー」なんて言われることもないのに。

なんとなく眠りたくない夜を過ごす代償に、私は罪悪感を背負わなければならないのだ。

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もちろん、それは承知の上で気合いを入れてまで夜更かしをしているし、むしろ、これこそが醍醐味である、とも思う。

なんともいえない満たされた感に伴うこの背徳感が、夜更かしがとっておきの時間の使い方であるということを教えてくれる。

私は、しなければならないことがあるから、夜更かしをするわけではない。失恋の悲しみや明日への楽しみなど、特定の感情に包まれるためでもない。

夜更かしをしたいから、夜更かしをする。

「よし、今日は夜更かしをするぞー」
そう思うのには、何かきっと、きっかけがあるのだろう。

でも、その何かが分からないまま、午前0時を超えてみるのも悪くない。