水色のカーテンから月白色の光が差し込む。
太陽からの光を遮るという役割が果たされていないその布が、私に目を開かせ夜が明けたことを知らせている。雀の鳴き声、炊飯器のタイマーの音、新聞配達のバイクが通り過ぎる音、朝を象徴る音が身の回りから聞こえる。普段は聞くことがなかったこの音達が今の私にとっては不快な雑音でしか無かった。私は今日、一睡も出来ないでいた。

◎          ◎

「もう好きじゃない」

この言葉が何度も頭の中で再生され、あの時の彼の顔や冷たい風の感触などが強制的に思い出される。また涙が出た。目元がだんだんと濡れていき枕も布団も濡れる。しまいには鼻が詰まって息が、鼻呼吸ができない。苦しい。昨日の夜はご飯も食べる気にならず、風呂も入らずに布団に入ったのだ。私の体と心はぐったりなはずなのに、彼が私の頭を支配して眠らせてはくれなかった。今は1月の下旬。とにかく寒くてとにかく苦しかった。度々、心がぎゅうううと締め付けられて痛かった。涙を流しながら早く眠らせてくれと祈った。

彼とは同じ学校で同じクラス。周りに秘密でお付き合いをしていた。学校帰りに周りに内緒で2人きりで会うのは何よりの楽しみだったし、クラスでは全く話さないからこそ2人だけの秘密がとても愛おしかったのだ。くだらない話したり、たまに触れ合ったり、この時間がずっと続けばなぁ。これから先も続くのかぁ。と、幸せな感情に包まれていた。

◎          ◎

が、最近は彼との関係は良くない状況になっていた。原因は、嫉妬。お互いの恋愛対象として見ていない異性の友達、つまり自分からすればただの友達との関わり方にお互いが不満を持っていたことだ。奥手で気を使いすぎてしまう私達だからこそ、不安を伝えられず溜め込んでしまっていた。そしてついに思いが爆発して言い合いになってしまったのだ。

そこから彼と毎日続いていた連絡は途絶えた。私から何度も連絡しても返事は返ってこなくなった。でも別れるとは思っていなかった。彼が私のことを本当に好きなのは分かっていたし、話せばきっと。なんて不安ながらも前みたいな関係に戻れると信じていた。連絡が途絶えた1ヶ月後に彼から連絡が返ってくるようになって、どうにか会う約束を取り付けて彼に会ったのが昨日の夜。だけどもせっかく会えたのに彼は目も合わせずずっと黙ったまま。私がなんとか会話を生み出しても彼の沈黙によってかき消され、最後には私に好意がないことを伝えられた。前のように戻りたいという私の願いは叶わずただのクラスメイトに戻っていた。

◎          ◎

されたら悲しい事を私達は互いにし合っていた。している側はあなた以外好きではないのだから心配する事はないと自信があっても、見ている側はとっても不安なのだ。彼への信頼がないのではない。彼の周りの女が信用できないのだ。でもそれは彼も同じで私も彼が不安になるような行動をしていたから振られても仕方がないとも思った。惚れた方が負け、振った方が後悔するなんて言われている世の中だがそんなことはない。依存してしまった方が負けだ。振られてしまった私の心はボロボロになっていた。

振られているのにもかかわらず私は (私のことまだ好きなはず)と希望を持ったと思いきや、(私はあんなに好きでいたのにあの人は本気じゃなかったんだ) というような思い込みを布団の上でひたすら繰り返していた。今日が休日で良かった。まだ顔を見てはいないが、本当に酷い顔をしていると思う。今頃彼はどうしてるだろうか、普通に寝ているかな。それとも私みたいに眠れなくて少しは悲しんだりしているのだろうか。あぁ、他にもっとできることがあったのではないか。こんなことになるならもっと素直になってれば良かった。布団の上で涙を流しながら、彼と過ごしてきた時間を思い出しては何度も後悔した。

◎          ◎

時間は戻ることなく進んでいく。カッカッカッと頭の上にある目覚まし時計の針が、過去に戻ることはできないんだぞということを私に教えるようにして1秒ごとに音を鳴らしている。
私は明るくなった水色のカーテンを見つめながら祈る。(朝は来なくていいから、あの日に戻してください)と。