今日も変装してスーパーへ出かける私の「移住」にかける切実な想い

現在私は長野県への移住を計画している。それには大きな理由がある。
数年前、精神疾患になったのを機に私はこれまでの人間関係を遮断した。
SNSを消し、連絡手段を無くした。スマホに残った連絡先は家族のみ。
そこから私は身を潜めて生活するようになった。今も私は友人たちから逃げるように生活をしている。
スーパーに買い物に行く時には帽子とメガネとマスクが欠かせない。いわゆる「変装」だ。
万が一、友人や知り合いにすれ違っても「私」とバレないようにするために。
私が知り合いからこれ程までに逃げるように生活している理由としては、やはり精神疾患を患ったことが大きいだろう。
私が患った精神疾患は「双極性障害」だ。双極性障害は気分の落ち込むうつ状態と気分が高揚する躁状態や軽躁状態を繰り返す病気だ。
初めの方にSNSのアカウントを消したと書いたが実は今はSNSを再開している。それは軽躁状態になった時に思いつきで「友人たちに病気を公表しよう」と思い立ったからだ。私は再び繋がった友人たちに「私は双極性障害です」と公表した。
しかし軽躁状態を抜けうつ状態になった時に「なぜ打ち明けたのか」と酷く後悔した。
後悔した理由としては精神疾患に対する偏見は少なからずある、と知っていたからだ。
高校生の時、学校に来なくなったクラスメイトがいた。そのクラスメイトは「精神的に病んだらしいよ」などと噂されていた。その時私は「精神を病む=不登校=悪いこと」といったイメージを持ってしまった。無論、不登校は悪いことではない。しかしその時の周りの反応、クラスの雰囲気などから自然とその考えは植え付けられたのだ。
その後看護学校に進学した私は実習に力を入れていたのだがその中には「精神科」の実習もあった。精神科の実習は独特な雰囲気があった。鍵の掛けられた部屋や四肢の動きを抑制する拘束帯などがあった。その時に私は「精神科=怖い所、怖い人」などといった間違った認識を持ってしまったのだ。
実習を終え、とあるメンバーが「精神科に入院する人は負け組だから」などと発言した。私は精神科に対し怖いというイメージは持ってしまったが「負け組」とは思わなかった。その時にそのメンバーに対して大きな怒りを覚えた。しかし冷静に考えたら精神疾患を持った人を「負け組」と捉えたメンバーも、精神疾患を持った人を「怖い」と捉えた私も両者ともに間違った認識をしており同レベルだ、と深く反省したのだった。無論、精神疾患を持った人は負け組でも怖い人でもない。
しかし、このことからますます私は精神疾患に対する世間の反応は歪んでいると考えるようになったのだ。
そんなことをうつ状態になり思い出し「絶対に公表するべきではなかった。友人たちになんと噂されているか」と不安が強くなった。
そこから私の潜伏生活は本格化したのだ。
そんな私を見兼ねた母が「そんなに隠れて生活しないといけないのならいっその事引っ越そうか」と提案してくれた。直ぐに「長野県に移住したい」と答えた。私はYouTubeで山の映像を見るのが好きなのだ。
長野県といえば山の宝庫だ。長野県に住めば毎日山に囲まれて美味しい空気を吸いながら知らない人達の中で過ごせる。外出時の帽子やメガネやマスクも必要ないだろう。帽子がなければ好きな髪型ができるし化粧をしてもマスクで縒れる心配もない、メガネを外せば視界も広がるだろう。そんな当たり前のようで当たり前でない生活が送れるかもしれないのだ。
そう、現在の潜伏生活は普通ではない。心身共に磨り減っていく。別に誰も悪くはない。病気になったことは仕方のないことだし友人たちも私が思うほど私のことを気にしてはいないだろう。
私の思考が私自身を縛り付けていることは自覚している。しかし1度植え付けられた考えはそう簡単には抜けてはいかないのだ。
移住にあたって諸々の手続きや調整等で中々思うようにそこに辿り着けないのがもどかしいがその間にも私の潜伏生活は続いていく。このままここにいるのは心身共に良くない。長野県に住めば人間としても大きく変われるような気がしている。
もしかしたら潜伏をしなくてはいけないと考えてしまうこの思考も良い方向へ変わっていってくれるかもしれない。そんな期待も込めている。
そして人間として良い方向へ変わった時に再びこの地に戻ってくるというのも悪くはないだろう。その時には、精神疾患に対する偏見や間違った認識を「それは違う」と声を大にして言えるような人間になっていたい、と強く願う。
そんなことを考えながら私は今日もまた「変装」をしてスーパーへ出かけるのだった。
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