「プリンセスは嫌、忍者がいい」自由を貫いた娘の姿に学んだこと

フランスに引越してから、1週間が経った頃。長女がやっと小学校に慣れてきたと思っていた矢先に、その事件は起こった。
入学して数日後、急に「明後日はカーニバルをやるから、衣装を着てきてね」と言われた。
周りのママたちに聞いたり、長女にお友達に何を着るか聞いてもらったら、どうやらプリンセスが圧倒的に多いそうだ。でも長女は「プリンセスは絶対に嫌だ」というではないか。しかも、「近所のショッピングモールで見かけた、忍者の衣装がいい」と言い出した。
長女は目が大きくて色が白くて、女の子らしい顔つきをしている。プリンセスの衣装を着れば、親バカ抜きにしても絶対に似合う。忍者のコスチュームが似合う、かっこいいタイプの顔ではない。しかも、忍者のセットにはマスクもついていて、顔がほとんど覆われてしまう。
「せっかくだから、プリンセスの衣装を着なよ」と誘ったが、長女は断固として譲らなかった。
昔から長女には、こういうところがある。きれいなドレスを買ってあげても、絶対に着ない。ピンク色のラルフローレンのダウンなんて、すごい値段がしたのに、全く袖を通さずに終わってしまった。私は何度も、心からがっかりした顔を彼女に見せたと思う。でも、彼女は意思を曲げなかった。
こうなったら絶対に聞かないことは分かっていたので、私は折れた。長女が小学校に行っている間に、ショッピングモールのおもちゃ売り場へ向かい、コスチューム売り場にたどりつき、値段を見て驚いた。
どれもペラペラでお粗末なクオリティなのに、5000円以上するではないか。特に忍者や日本のキャラクターものは高い。フランスで和製のものを買うと、割高になるのだろうか。「こんなところで思わぬ出費が……」と胃が痛くなりつつ、長女には忍者、長男にはマリオの衣装を購入した。
そしてカーニバルの当日。通り道は事前に共有されていて、私はそこへ向かった。小学校と幼稚園の子たちが、街中を練り歩いている。
長女のクラスが近づいてきて、驚いた。なんと、彼女は衣装を着ていなかったのだ。
私は思わず長女を捕まえて「ねえ。なんで着てないの?」と聞いた。周りのみんなは仮装していて、女の子たちはプリンセスだし、男の子たちはヒーローとか着ぐるみとかを着ている。私服は長女だけだ。
すると、彼女ははっきりと「着る気分じゃなかったの」と言った。
怒りを通り越して、別の感情が生まれてきた。彼女が通う小学校で日本人は、長女と、彼女の兄の2人だけ。私ならなじもうとして、プリンセスの衣装を着るか、そうじゃなくても何かしらの仮装はしていたと思う。だって、みんなやってるから。でも長女は、あえてなじまない道を選んだ。自分はやりたくない。ただ、それだけの理由で。
「クラスの子は、長女に対してどう接するんだろう? いじめられたりしないだろうか」とヒヤヒヤして眺めていたら、何てことはない。一緒にダンスをしたり、ふざけたり、ジャンプをしていた。
みんなと同じものを着なくてはいけない。そうしないと、仲間外れにされてしまう--そう思ってるのは、実は大人だけで、意外と周りは気にしていない。だから、もっと好きに生きればいい。自由に生きればいいのだ。
肩の力が抜けて、改めて見渡すと、先生や保護者たちも仮装していた。60歳を超えたおばあちゃんがマーメイドの衣装を着ていたり、かなりふくよかな女性がボディラインがぴたぴたのボディスーツを着ていたり、みんな自由だ。
「他人に何て言われるかな」という恥の発想は、おそらく全くない。長女と同じような「強さ」が、そこには見えた。長女もその先生たちから、強さを学んでくれればいいなと思う。何より一番学ばなくてはいけないのは、私なんだろうけど。
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