バンドの世界は男社会だ。

そう感じる理由は、私が大学時代に軽音サークルに所属していたから。
とはいっても当時の私はろくに練習をしていなかったので、たいしたスキルは身についていない。だから楽器の演奏技術について語れる資格や知見はまったくもってないのだが、あの頃の私を含めた、“男社会でもうまくやっていける女子たちの強さ”についてなら、よく知っている。

◎          ◎

バンドの世界が男社会だったのだと理解したのは、大学を卒業して、社会人になってからのことである。大学のサークルという小さくて大きい社会にどっぷりと浸かっていた私は、その中の仕組みや雰囲気に何ら疑問は抱いていなかった。サークルでは先輩や後輩との関わり方を学ぶことができたし、人として成長できるような経験もたくさんさせてもらった。しかし実際に社会という大きな海出てみると、特に私が進んだWeb業界では、男女隔てなく意見が尊重されていることを身をもって知った。
そしてようやく、“アレ”はれっきとした男社会だったのだと気が付いたのだ。

それから私は、あの頃サークル内でやり抜くためにやっていたことを自然と思い返していた。無意識だったこともあれば、意識的にやっていたこともある。失敗したことももちろんあるけれど、そうやって立ち回ってきた私ってすごいじゃないか、そんな風に思えるようになった。そしてそれは、あの頃同じ環境下でサークルにいた他の女の子たちにも言えることでもあると。みんなは気付いていないかもしれないけれど、私たちはすごいし、強いのだ。

◎          ◎

まず男社会である理由の1つに、男子しか部長になれないという暗黙の了解があった。だからこそ、男子の意見の方が、サークル内で同調圧力がかかりやすかった。
そんな先輩たちの演奏は実際とてもカッコよかった。それがサークルを続ける理由の1つでもあるくらい。だからこそ私たちはライブで恥ずかしがることなく拳を上げて声を出し、打ち上げではその感想をしっかり言葉で伝える。ポジティブな言葉をかけられたら誰もが幸せな気分になるということを知っているから。これは男女関係なく、人とのコミュニケーションを築くためにはとても大切なことだけれど、私たちが強いと言える理由は、もうひと段階先にある。それは、それらを自然にやってのけた上で“むやみやたらに好意をむけさせない”ということ。

これは男子側も真面目で良い人が多かったことが関係していると思うけれど、好意を弄んで立ち回るのは比較的とりやすい選択。それでもコミュニティ内の秩序を乱さないことの方が重要だということを知っているのは、「デキる女」の証拠である。

これはサークルの女子たちの魅力がなかったということでは全くない。むしろ容姿も雰囲気も可愛い子たちばかりで、合コンだったら大優勝レベル。実際にサークルの外でしっかり彼氏を作っている子も何人かいたし、これはつまり、女を捨てて男社会にむりやり自分を合わせていたわけではなく、女子として、男子の社会を適度に盛り上げられる能力がみんな高かったということではないかと思う。果たして男子が女子のグループにポンっと投げ出されて、私たちと同じような対応ができるのか。女子はサークルの飲み会でみんなとする会話と、女子会でする会話とでは内容がまったく違う。
いわば、“男社会と女社会を自由に行き来するパスポート”を隠し持っている私たちは、実はとってもバランス力が高く、クレバーなのだ。

◎          ◎

社会で活躍する女性たちもこういったスキルが高いように思う。私は趣味でお笑いをよくみるけれど、最近は恋愛をちゃんとしつつ、男社会である芸人の世界で揺るぎないポジションを獲得している女性芸人が増えているような気がする。

男子にいじられるようなキャラクターであっても、それはその世界の中だけの話であって、外に出ればあなたを魅力的に感じてくれる人はたくさんいる。人のことをいじって笑いをとる人が与える印象は、たぶんどこにいっても変わらない。良くも悪くも。
改めて考えると、大学時代はサークルのおかけでとても楽しかった。男社会と女社会の両方を楽しめたのは、私たちがとても賢く強くあったからだと、そう思う。そんな私たちは自分たちのことをもっと誇らしく思って良いのだ。

◎          ◎

世の中には、気が付かないうちに私たちと同じように、あの“パスポート”を持って戦っている人がたくさんいるのかもしれない。