「仲良しクラブみたいなことはやめてね」

新しい転職先に入社して、2か月が経ったころ。上司との定期面談の機会があり、その時の一言だった。

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配属先の部署は年齢層が高かったものの、たまたま同年代が数人いた。シフトが一緒になると業務連絡は勿論、適度なコミュニケーションとして、プライベートな話をすることも度々あった。
また部署全体の雰囲気としても、殺伐とした上下関係や、役職の違いによるコミュニケーションのしづらさなどはほとんど感じることのない環境だった。ゆえに、人によっては行き過ぎたプライベートな話を所かまわずしてみたり、仲がいい人同士での煩雑な仕事も見受けられた。

そんな環境だから、新しく入社した私が同年代のスタッフとプライベートな話をすることは、上司としては見過ごせない思いがあったのだろう。

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私は仕事をするうえで重要なのは、個人の能力よりも、人間関係だと思っている。いくら個人の能力が秀でていても、自分以外も関わる仕事であるならば、仕事のクオリティーを落とさないように円滑な情報共有や引継ぎができなければ組織として成り立たない。
しかし、仕事上での良好な人間関係を築くためのコミュニケーションというのは、非常にきわどいと感じるのは私だけだろうか。

良好な人間関係を築くために、プライベートな会話をしよう!というわけではないが、手段の1つではあると思っている。プライベートな会話で垣間見える相手の人間性に、「この人と一緒に仕事したい」「この人なら仕事についての相談ができる」とか、精神的にも仕事に取り掛かりやすかったりする。だが、前提として、どんな些細なプライベートな会話であっても、仕事のときはちゃんと切り替えるというのは忘れてはいけない。プライベートな会話も、時と場所を間違えれば、ただの私語なのだから。
そして、私がきわどさを感じているのは、まさにそこなのである。プライベートな会話をするのに適切な時と場所の捉え方は、私と相手では違う。しかも、“会社でする話じゃないでしょ”と思ったとしても、その場の空気を優先してしまうことの葛藤もある。

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プライベートな会話のなかにも、内容の濃さがまるで違うものがある。
どの濃さの会話をするかは、その時や場所、目の間の人との関係性によって変わってくると思う。
私はいままで意識をしていなかったが、会社でするプライベートな話は、仮に第三者に聞かれ知られたとしても自分が傷つかない程度の内容を選んで話していた。それは私が、完全にプライベートと切り離すまではいかないけど、あくまで会社での人間関係は会社で完結するものだと思っているからだ。
けれど今の職場には、会社での人間関係もプライベートの延長という考えの人もいるからこそ、極めて私的な内容のことまでも取り交わそうとしてくるのではないだろうか。

会社での人間関係の捉え方は人それぞれであるからこそ、良好な関係性づくりには難しさがある。
だから、プライベートな会話が発生しやすい関係性の人には、いっそ「この件ってどうなっていますか?」「私はこうしたいと思っているのだけど、どうしたらいいと思いますか?」と、積極的に仕事上でのコミュニケーションをとるようにしている。

そして時には定時退社までの数十分で、その日の仕事仲間と今日の働きぶりを労い、そして些細なプライベートな会話をする時間として過ごしている。定時までという時間制限つきの会話のおかげで、会社での人間関係をずるずると引きずることなく退社できる。

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私が働いていて楽しいと思える瞬間には、私以外の人もそこに関わっていて、必要最低限だけの会話だけじゃ行き届かない仕事があって成り立つ。けれど、そこで生じるプライベートな会話の線引きはあるし、なにより自分自身がすり減らないために必要なことなのである。