拒食と罪悪感、恨み。副作用を受け入れるまでにかかった時間と葛藤

「ムーンフェイス」、「野牛肩」という言葉を知っているだろうか。
ステロイドという薬の副作用で、顔や肩に脂肪がつく状態のことだ。ステロイドは脂肪の代謝を変化させる。単なる「太った」とはわけが違うのだ。運動や食事制限では劇的な改善は見られないことが多い。
ステロイドの使用量が減ればもとに戻るとは言われているが、ステロイドを長期使用している人でムーンフェイスや野牛肩に悩んでいる人は多い。見た目に出る副作用、しかも顔・顔周りとなると、気に病む人が多いのも当然と思える。
私もステロイド長期ユーザーだ。使い始めてかれこれ10年になる。完治する方法のない難病を患っており、その治療薬にステロイドを使っているのだ。
ムーンフェイスや野牛肩になるのが嫌で、周りが引くほど神経質に生活に意識を尖らせていた。脂肪代謝の異常に立ち向かう手段として真っ先に思い浮かぶのは食事である。食べなければ脂肪が作られない。そう思い拒食を始めた。
水ばかりを飲んで固形物を摂ることを拒んだ。しかし、低血糖で具合が悪く、筋肉も落ちて足元がおぼつかない。肌が異様に乾燥して髪もボロボロ。流石にまずいと思った医者が私をなだめすかして何か少しでも食べるように説得したり、母が私の好きな料理をこれでもかと作ってくれたりした。
その気遣いが心苦しくて罪悪感を覚えたり、普通に食べられない自分を責めたり、その薬を使わなければならないこの病気を心底恨んだりした。
ムーンフェイスなどになったとしても、ステロイドが減れば副作用はマシになっていく。そうはわかっていてもなかなか受け入れられないのが現実だ。
食べなくても生きられる体ならよかったのに。それか食事を全てサプリメントで賄うか。毎日のようにそう思っていた。しかしそのような体になるのは不可能だし、そのような食生活にしてはいけないと頭のどこかに理性が残っていた。
一時的に見た目が変わったとしても、食べて、療養して元気になるのが1番じゃないか。元気になればステロイドも減らせるわけだし。
必死にそう言い聞かせては沈みそうな気持ちを立て直し、こんにゃくとかヨーグルトとか、健康に良さそうなものなら少しずつ食べられるようになってきた。
それに伴って体を動かせる時間も増えてきた。やっぱり食べることは必要なのだと改めて思い知らされる。当たり前のことなのに、それをわかって、受け入れて、実際に食べようと思うまでこんなに時間と苦労が必要だった。
ステロイドなどの薬を使わない人でも、過度なダイエットや、痩せたいという思いが強いがゆえに「食べること」に様々な葛藤を抱えている人は多いように思う。
韓国アイドルは細い人ばかりだし、誰もがSNSなどで発信できるこの時代には、間違った知識や情報が溢れている。過激な発言をして煽ったり、他人の見た目を平気で誹謗中傷する人もいる。
本来人の見た目についてどうこう言うことはデリカシーにかけた行動だし、私のようなやむを得ない事情を抱えている人もいる。人間は食べないと生きられない。
だから、外野があれこれ言って食べることに苦しんでいる人をさらに追い詰めることなどあってはならない。生きるために食べる。そこに悩みや疑問が生じない世の中になればいいなと思う。
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