成り行きでも受け入れてもらえる。「いつか」と夢見るタイでの暮らし

高校3年生で1年間のタイ留学。当時の生活を振り返ってみると、沢山の違いと心地よさと、葛藤と。日本の生活との違いを全身で感じた経験だった。
まずは食事。タイの食事は辛い、甘い、酸っぱいが代表的な味付け。それまでほとんど口にしたことのなかったタイ料理。ホームステイ先での食事で、人生初のトムヤ ムクンとご飯を出された時は、正直とてもご飯が進む味ではなくて、戸惑った。酸っぱいス ープとご飯でどうやって食べるのか、と。そんな初めての食事との出会いを何度も経験していくと、段々と舌も慣れ、むしろ好んで食べるようになった。
タイ料理が好きになった。気持ちの問題なのか、食べ物の問題なのか、日本では朝に食欲もあまりわかず無理やり食べている感じだったのに、タイに来てからというもの、朝からお腹は空いて、もりもりと食べた。おかげで体重も順調に増え、帰国した時には久しぶりに会う祖母に顔が丸くなったねと言われたものだ。
次に住環境。タイの気候は基本的に暑くて、寒い時期でも少し厚手のパーカーを羽織るくらいで済む。だからスーパーやショッピングモールはいつも冷房がガンガンで、半袖のままずっといると風邪をひきそうになる。梅雨以外の時期はカラッとしていて、洗濯物も外に干している とすぐにバキバキに乾いてしまう。蚊にさされやすい私は、最初の頃は全身刺されまくって大変だった。
家の中は、タイルや木などで出来ていることが多く、裸足でひんやりする床の上を歩いた。どこの家も学校なんかも天井にはデフォルトで扇風機が付いていて、常に部屋の中を風が循環していて心地よかった。1日2回のシャワーは基本水なので、寒い時もあったけど。髪は扇風機で乾かした。タイでは、おそらく専業主婦というのはメジャーではなく、ホストマザーもファザーも働いていた。食事はまれに家で作ることもあるが、大半は近くの屋台や市場で買ってきて食べる。その気楽さも良かった。
どこへ行っても、良い人もいれば悪い人もいる。でも全体的な空気感というか国民性というのか、色々な場面で日本との違いを感じていた。
街中のお店では、いらっしゃいませと言いながら平気で携帯をいじったり、ご飯を食べているし。先生と生徒の関係も日本よりフランクな感じ。
ニューハーフの大会が世界に先んじて開催されているだけあって、性に対して寛容というか、もちろん子供同士のいじり合いみたいなものはあるけれど、当たり前にそこにあるものとして生活している。距離を置くべきものという認識ではなく、当たり前に存在するもの。学校では生物学的な性が混ざりあったグループも多々あった。
私もそうだけど、自分の英語力に自信がない時、つい外国人をみると尻込みしてしまって、避けてしまったりする。でも、タイの人はたとえ英語や日本語がわからなくても、日本人よりか幾分、私や他の留学生に対して積極的というか、近付いてくれている気がした。ただの興味本位かもしれないけれど。
美意識や自分に対しては、小学生の頃から自分の毛深さにコンプレックスを感じ、中学生から処理を開始した私。タイの女子たちは、脇は処理していても、腕や脚の毛は特に処理していないらしかった。初めの頃は、気にしていた私もそのうち処理をやめた。
気にしなくていいというのはこんなに楽なのか。むしろ処理しない方が、中途半端なチクチクも焦りもなくて心地よかった。それでもタイでも日本の若者と同じように、より白い肌に憧れたり、韓国系に憧れていた子が多かった。
ただし、目指すけど、別に今の自分も好き。写真を撮る時、撮られる時は、ほとんど全員が自分が一番綺麗に写ろうと必死。自撮りも、ソロ写真を撮ってもらうのも当たり前。自撮り写真を自分のSNSに載せるのも当たり前。自己肯定感の塊のようなタイ人。
自己肯定感が低くて、自信がなくて、いつも他人の目を気にして生きてきた私でも、マイペンライ(大丈夫)と受け止めてくれる場所。それがタイ。今ではタイ料理も環境も、人も生き方も好きになった。
別にタイで明確にやりたいことも、一人で働きに出る勇気もない私は、いつか今のパートナーと結婚して、彼に海外赴任が告げられ、しかもそれがタイという、限りなく低い可能性に少なからず期待している。
そしてもちろん当たり前のように彼に付いていく意思を表明し、それを理由に不満だらけな今の会社を辞める正当な口実ができたと喜び、念の為早めにタイでの生活をひとり想像している。
我ながら夢見がちというか、他人任せというか、成り行きまかせで、無責任である。でもそんな私を受け入れてくれるだろう国もまた、 適当なタイなのである。
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