ちょうど2年前の8月、私の誕生日。
中学時代の1コ上の先輩から、ほとんど10年ぶりに「お誕生日おめでとう」と連絡があった。 

私たちの親同士が親しく、中学の時は通っていた塾も一緒だったこともあり、仲が良かった。
家の方面が一緒だったからたまに学校から一緒に帰ることもあった。
中学を卒業してからは、ほとんど会っていなかったから驚いたけど、その私の誕生日の1カ月ほど前に、たまたま最寄りの駅であっていたから連絡をくれたんだろう。

彼が私の誕生日に連絡をくれてから何度か一緒に出かけるようになった。昔馴染みで一緒にいるととても心地良かった。
優しいお兄ちゃんと一緒に出かけているようで、楽しかった。
こんな人と付き合ったら、きっと幸せなんだろうなぁ、と思った。
でも、私は来年の春から新生活で海外へ引っ越す予定だった。
それに私は、そんなに彼のことを好きじゃなかった。

彼は友達5人とシェアハウスをしていた。私は絶対に一人の時間が欲しいタイプ

私たちは何もかも正反対だった。

好きな食べ物、趣味、友達付き合い、性格までも全てが正反対だった。
私は、タイ料理や中華料理、トムヤムクンやサンラータンメンのような辛くて酸っぱいさっぱりとしたものが大好物だけど、彼は辛いものと酸っぱいものが苦手で、ハンバーグやトンカツといったガッツリしたものが好きだった。

彼は格闘技を見るのが趣味だったけれど、私はスポーツ観戦自体そんなに好きじゃない。
私は映画を見ることが好きだけど、以前彼と映画館に行った時、彼は映画の途中で寝てしまっていた。別に、映画館で寝ることが悪いとは思わないけれど、私は一度も眠くなったことがないから、わからないなぁ、と思った。

彼は友達5人とシェアハウスをしていたけれど、私は絶対に一人の時間が欲しいタイプだ。友人と一緒に住むとしても本当に仲のいい親友と2人でルームシェアが限界だと思う。
私にとって、世界中を旅行して、今まで出会ったことのない訳のわからない新しいものに出会うことはこの上ない喜びだけれど、彼は旅行自体には興味がなく、どこに行くかよりも誰と行くかに重きを置く人だった。

いつの間にか彼の存在が大切になっていた。好きかどうかはわからなかった。

昔馴染みで、相手のことよく知っていたから、違いが喧嘩になるということはなかった。
でも、好き、という気持ちとは少し違うような気がしていた。

お互いがあまりにも違う人間すぎて、付き合って、一緒に過ごすことが、想像できなかったのかもしれない。
両親同士も仲がよく、お互いの兄弟のこともよく知っているから、今更付き合うとか、恥ずかしかったのかもしれない。
彼もなんとなく私へ好意は持ってくれていたのかもしれないけれど、いざ付き合って、いきなり遠距離になっても関係を続けられるほどではなかったのだと思う。

そんな中、新型コロナウイルスが流行して、引っ越しが延期になった。
ステイホームでずっと家から出ない生活が続いた。
いろいろなトラブルと、未知のウイルスへの不安で、私は少し精神的に不安定になった。
彼は在宅勤務となり余裕ができたようで、そんな私を気遣ってか連絡も以前より頻繁にくれるようになった。

以前より会う機会が多くなった。
ドライブに出かけたり、お昼ご飯を一緒に食べたり。

精神的に参っていた私は、数少ない彼との気晴らしをとても楽しみにするようになった。
いつの間にか彼の存在が大切になっていた。
それでも好きかどうかはわからなかった。
でも、また会いたいとは思っていた。

二人で出かけた帰り道、彼から突然の質問。「俺のことどう思ってる?」

そして昨年の8月、私の誕生日の少し後。
その日もいつもと同じように車で出かけた。
なんだか、彼の様子がいつもと違うような気がした。
いつもより口数が少ないし、考え込んでいるような時間が多いような気がした。

そして帰り際、突然、「俺のことどう思ってる?」と聞かれた。
私は戸惑って、適当な返事でごまかしてしまった。
彼の私を見る目が、好きといっているようで、いたたまれない気持ちになって目を逸らしてしまった。

私は彼の言葉を遮るようにして家に帰った。
彼の言葉を聞く勇気がなかった。本当にひどいやつだ。
それから少しずつ連絡の頻度が減り、出かけることもなくなった。

私はもっと前から彼の好意に気づいていたはずだった。
それなのに、向き合うのが怖くて、答えを出すのが怖くて、気づかないふりをしていたんだ、と後から思った。

「好き」と認めて前に進むのか、「付き合わない」と決めて彼から離れるのか

子どもの恋愛じゃないんだから、早く向き合って、答えを出して、きちんと関係をはっきりさせていなければいけなかった。
彼は、私の心の支えとして大きな存在になってしまっていたから、この心地よい優しい場所を失うのが怖かった。
ましてや好きと認めて前に進む勇気も、付き合わないと決めて離れる勇気もなかった。
私はただ自分のことばかりを考えて、彼に対してとても不誠実なことをしてしまった。

結果として彼を一番傷つける形で、彼を拒否してしまった。
自分のことなのに、自分のことがわからなかった。もういい大人なのに、自分自身の感情とさえ向き合えずに、いったいこれから何ができると言うのだろう。

ここに書いても、彼には届かないかもしれないけれど。
ひどいことをして、本当にごめんなさい。