未来の生き方を決めるのはまだ早い。ただ、もう地元には戻らない

地元を出て就職するとき、ひとつだけ決めたことがある。
地元には戻らない、ということだ。
私が育った街は田舎で、田んぼや畑が身近にあった。それが故に、東京に興味を持ち、テレビっ子にもなった。テレビには、東京や大阪など都会が映し出される事が多い。ドラマも舞台や撮影地に東京が使われる事が多いので、目にする機会が多かったというのもある。私の中で東京は、憧れの街になっていた。いつか東京に行けたらな、そんな思いを心のなかで大きくしながら学生時代を過ごした。
チャンスが訪れたのは、大学生のとき。これから仕事をするにあたって就活をするとき、私は東京に狙いを定めて就活を始めた。合同説明会も、新幹線に乗って東京まで行って参加して、1泊するかしないかで地元に戻った。
泊まるホテルまでは電車で帰っていたのだが、ふと感じたことがあった。東京は忙しない、という感覚だ。電車の中から見る夕暮れの町並みをみて、寂しさを覚えた。一度ではなく、訪れるたびにどことなく寂しさが感じられたため、これを毎日感じるのか、と考えてしまったのだ。憧れていた場所ではあったが、あくまで仕事をする場所として見ていたのだと気づいた。バリバリ働くにはもってこいの場所だが、どうも暮らすには落ち着かない気がした。悪くはない。ただ、暮らすにはもう少し落ち着くところがいいかもしれないと思った。
田舎で育った私には、東京は喧騒的なイメージがあり、静寂さを求められない気がした。その後、さまざまな縁があり、決まった就職先は東京ではなかった。関東圏ではあったので、納得はでき、そこへ就職することにした。場所的にもちょうどよいと感じた。最初住み始めたところは、やや賑やかなところではあったものの、暮らしにくいとは思わなかった。夕方も悲しくなることはなく、日常を送りやすい場所だと思った。ときに忙しいくらいであれば、全然問題ない。むしろたまには忙しさを感じないと、都会に憧れて関東に出てきた意味がない。適度に忙しく、適度に落ち着ける場所として、ちょうどいいところに縁があったと思った。
今は引っ越して別の場所にいるが、地域としては大きく変わらない。今の場所はさらに居心地がよく、特に住んでいる家はとても気に入っている。昔、こういう暮らしがしたかったという願いを大まかに網羅できたような暮らしだ。もちろんさらに改善していきたいところはあるが、とりあえずはここで暮らしていこうと決めている。
ただ、ずっと住み続けるかは別の話だ。終の棲家にするにはまだ早い。絶対ここ、と決めて移住した人ではないので、深く思い入れがあるわけでもない。ライフステージが変われば、それに対応して新しい生活を送るだろう。意図的に環境を変える可能性もある。今の段階では今の家が気に入っているという話なのだ。
この先どのように生きていくかは決めていない。どこで暮らすか、どこに骨を埋めるかは何ひとつ決めていない。ただ、地元には戻らず暮らしていくことだけは決めている。
親には申し訳ないが、今の暮らし方は私に合っていると思っている。辞めるつもりはない。私が憧れた場所で、憧れた生活を追い求めていくことが、私のやりたい暮らしだ。とりあえず日本の、とりあえず今の場所で、今の暮らしを続けていくことが目標でもある。
考え方は人それぞれだが、今の私は、暮らしも生き方も未来を決定する時期ではないと思っている。まだ早い。もう少し先になれば、これからを決める瞬間がやってくるだろう。そのときに後悔しないように、今のうちから考えておくことは大切かもしれない。
もしかすると明日にでも環境が変わる可能性がある。決断を迫られるタイミングになる可能性は0ではない。その時のためにも、考え始めるには遅くないだろう。これからどんな生き方をしたいのか、どこに住みたいのか、どんな仕事がしたいのか、あるいは仕事をしないのか。今の私はどのような答えを出すのだろう。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。