普段、何か物を買うということに対しては、かなり理性的なほうだ。

同じ年頃の子たちに比べて、あまり自分を飾り立てることに興味がない。
清潔感さえあれば、他は割とどうでもいいと思うようなタイプで、気を抜くと黒、紺、グレーとダークなワードローブになりがちだ。
それでもこの前、珍しく一目惚れして衝動買いするという体験をした。

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もともとは、デッキシューズのようなものを探していた。
普段使いの靴は、もっぱら履いていて疲れないスニーカー。いつでも走り出せる(と言っても実際に走ることなんてそうないが)足下が好きで、この日もそんな一品を探し求めてネットショッピングサイトをぬるぬるとスクロールしていた。
ふと、ファッションサイトでふいにおすすめに上がってきたひとつに、目を奪われた。

スリッポンの表面に、シルバーのビジューがこれでもかと敷き詰められたそれ。
きらきら光る宝石が足下に光る、まるで物語の主人公のような、目を惹く体裁をしたその靴。

見た瞬間に「これだ」と思った。
それまで、候補として欲しいものリストに入れていたどの靴よりもその靴が魅力的だった。
可愛いけれど甘過ぎなくて、私の好みにぴったり。迷うことなくすぐに、購入ボタンを押した。

数日後に届いたその靴は、写真通りきらきらしていて、私の心は浮き立った。
あぁ、新しい靴を履くのにこんなにワクワクしたのはいつぶりだろう。
きっと、カジュアルなコーディネートに合わせるとちょうどよく女の子らしくなって、女の子らしいコーディネートに合わせればキリッと甘さを引き締めてくれそうだ。
自分のワードローブとその靴を頭の中で組み合わせて嬉しくなる。
そんな心の高揚を珍しく思いながら、さっそくフィッティングをしてみる。

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するとどうだろう。
買うときにSかMか迷って、大抵、海外製のものは想定より大きいことが多いからこれもきっと大きめだろうと思ってSを選んだ。

履いてみるとどうしても、かかととつま先のところがすごくきつい。痛い。
さながら、シンデレラのガラスの靴を履いてみた意地悪な姉のような気分だ。

「こんなに可愛い靴が、どうして私が履いたら痛いのだろう」。単純に恨めしかった。

それでも、一目惚れをした弱みというか、諦めの悪さというべきか、私は痛みを我慢しながらその靴を履き続けた。
ときには足首の部分が擦れて血が出たこともあった。よほどその靴が気に入っていないとそんなことはできなかった。

一週間くらいしてふと気づいた。
「あれ、今日は足が痛くないぞ」
我慢して履き続けた甲斐があって、裏地の布が私の足に馴染んでくれたようで、ガラスの靴は私にぴったりになった。
シンデレラじゃなくても、諦めなければその靴が履けるようになることもあるのか。そんなことを思った。

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どこに行っても、「あら、その靴、素敵だね」「どこで買ったの」と訊かれる、ドラマのヒロインのような私の靴。
最近暖かくなってきて、またこの靴を履ける季節になった。
たまには一目惚れも悪くない。今年はこの靴を連れてどこに行こうか。