朝が来るのが少し怖かった。だから、わたしは朝まで笑っていた。その朝のまぶしさと切なさ、そして不安は、今でも心に残っている。

関東出身のわたしは、大学を卒業して、全く違う地方に行くことを決めた。実家を出たこともなかったわたしにとって、それは初めてのひとり暮らしであり、知らない土地で働くという大きな挑戦でもあった。不安と期待が入り混じるなか、旅立つ前にたくさんの友だちと「最後」に会った。その中でも、忘れられない一夜がある。

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その日会う約束をしていたのは、インターン先で仲良くなった子たち。わたしがインターンとして関わっていたプログラムに、彼女たちは参加していた。1年間にわたるそのプログラムでは、合宿やイベントを通して、インターンと参加者という枠を超えて深く関わり、気づけば友だちのような存在になっていた。「関東を出る前に会おうよ!」と声をかけてくれて、何人かで集まることになった。夕方に集まり、ご飯を食べながら近況を話した。懐かしい思い出話や、進路のこと、最近あったちょっとした出来事。話題は尽きず、あっという間に時間が過ぎていった。このまま帰るのは、なんかもったいないね、そんな空気が、誰ともなく広がって、わたしたちはそのままカラオケに。

部屋に響く笑い声。マイクを回し合いながら歌い続ける時間は、どこか非日常のようでいて、でも心地よい日常の延長でもあった。いつも通り歌っているはずなのに、もうすぐこの時間が終わってしまう。そんな思いが、静かにわたしの胸に積もっていった。深夜を越えて、わたしにとって人生初のオール。高校生の頃は、友だちと夜遅くまで話すことはあっても、朝まで一緒に過ごすなんてことはなかった。眠くなっても、寝てしまうのがもったいなくて。みんなで過ごすこの時間を、少しでも長く感じていたかった。なんてことのない会話も、笑い合った瞬間も、沈黙の間さえも、全部が愛おしかった。何を話していたか、正直、全部は覚えていない。でも、あのとき感じたあたたかさと安心感は、今でもはっきりと覚えている。「この人たちと出会えてよかった」と、心から思った。

明け方が近づくころ、気持ちは少しずつ現実に引き戻されていく。楽しかった時間が終わってしまうこと。そして、新しい土地での生活が、いよいよ始まるということ。その両方が、わたしの中でずっしりと重なっていた。始発が動き出す時間、わたしたちは駅で「頑張ろうね」と声をかけ合って別れた。その一言に込められたのは、寂しさ、応援の気持ち、そしてまたどこかで会おうという静かな願いだった。

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あの夜は、ただ楽しいだけじゃなかった。すべての瞬間が、心の奥にそっと刻まれていくような、そんな時間だった。カラオケの最後の曲、駅のホームで交わしたまなざし、少しずつ白んでいく空。そのひとつひとつが、今でも鮮やかに思い出せる。

朝が来るという、それだけのことが、こんなにも切なくて、まぶしかったなんて。これからいくつの朝を迎えても、あの朝の感覚。切なさと、不安と、少しの希望がまじり合った気持ちは、きっと淡い思い出として、わたしの中に残り続けるのだろう。